のほほんさん

コーマののほほんさんのネタバレレビュー・内容・結末

コーマ(1977年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

とんでもなく恐ろしい話。
人の命を救う病院が、その大きさ故に権力を持つ。
そしてその権力が専門性という不可侵なものと結びついたとき、人を救うはずの医療がまるで自らを神のような振る舞いを見せ始める。

無造作に放り込まれる手術シーンがやはり見ている側としては緊張感があるのだが、当の手術にあたる医師たちにとっては日常茶飯事。これから手術を受ける、ナーバスになっている患者の前で今日の昼飯の話とかするんか?

本作に出てくる、人に死やあるいは脳死、あるいは医療事故、そんなことにも慣れっこになっていて、よくあることさ、と流してしまたり、あるいは他人の医療ミスが院内の政治のネタとして使いえる病院の人たちの描写には驚くしかない。

そして本作のタイトルである「コーマ」となった人たちの秘密。
そこに迫ろうとした主人公を襲い、秘密を知った裏方のおじさんを殺害する暗殺者。あの、大きな施設なのに人のほとんどいないジェファーソン研究所の無機質さは、まさに人間性を失った人達を象徴するかのようだ。

その研究所の中で天井から吊るされた「コーマ」達の姿は、同様に吊るされて保管されている死体と同様に尊厳を奪われている。やむをえない状況とはいえ、それを暗殺者の撃退に使う主人公もまた、どこか人間味が薄れているように思えてならない。きっと死んだのが友人でなければ、彼女もきっとよくあることだと流してしまっていたのだろうから。

そう考えると、わざわざ研究のために人を脳死にするというとんでもないことを行っている病院と、人の死に対して感覚がマヒした関係者の姿勢はあまり変わらないのかもしれない。

この物語をあまりリアルと考えたくないが、このようなことがあったのだろうか?そこはよくわからないが、しかし妙に淡々として無機質な感じがやけにリアリティを感じさせられた。


本筋とはあまり関係ないが、トム・セレックの登場には驚いた。扱いを見るに、この頃はスターではなかったのだろうなあ。