りっく

コンテイジョンのりっくのレビュー・感想・評価

コンテイジョン(2011年製作の映画)
3.0
本作はウイルスという「見えない敵」が人類の脅威となっていく点で、一種のディザスター・ムービーと捉えることもできる。しかし、本作で描かれるのは、視覚的なカタストロフィーでも、終末論的な世界でもない。ウイルスの発生から終息までのプロセスを、リアリティを伴ってひたすら見せる映画である。特に、ボーダーレス化・グローバル化した世の中において、ウイルスが国境を軽々と越えて広がっていく様は、それらの負の部分を感じさせる。ウイルスの「媒介者」である人間が触れたものを意識させるカメラワークも効果的だ。
 けれども、ウイルスの感染経路を巡る物語は、予想の範囲内を一度も越えることはない。「問題発生→対処」のプロセスも全て理に適った展開であり、デマが広まり人々が暴徒化していく様にも真新しさはない。
 豪華キャストを揃えながらも、あえて個々のドラマを排除したソダーバーグの意図も分かる。人間ドラマが生まれる余地もないほど切迫した状況を創造したかったのだろう。ならば、何故終盤に差し掛かった途端、各キャラクターのドラマへと物語を移行させるのか。今まで人物描写に重きを置いていなかった分、そこからは何のカタルシスも生まれない。物語の軸がしっかりしていないからこそ、作品全体が散漫な印象を受けてしまう。
 切迫した状況に真実味を持たせられていない点も致命的だと思う。その原因は、人が死ぬという恐怖を描ききれなかった甘さにある。ウイルス感染した人間の発作は見せるが、死ぬ瞬間を正面から描こうとはしない。観客には事細かに死亡数が情報として伝えられる。ここでは「死」は数値化されるだけだ。死亡した感染者の脳を調べる場面も、物陰から描かれる(台詞で説明される)。ウイルスという目に見えない恐怖を描くには、常に死と隣り合わせであることに実感を持たせるのが必要不可欠なのだ。
りっく

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