ヨーク

ロッタちゃんと赤いじてんしゃ 2Kリマスター版のヨークのレビュー・感想・評価

4.0
先日観た『ロッタちゃん はじめてのおつかい』も良かったが、その姉妹編とも言えるこの『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』も良かった。いやしかし『ロッタちゃん はじめてのおつかい』の感想文でも書いたが、特にどうこうとつらつら感想文を書くような映画でもないんだよな。相変わらずにロッタちゃんかわいい! とバムセかわいい! を受け取ればそれでいいという映画で、そこにはリンドグレーンによる瑞々しい感性の子供の目線とそれを見守る大人の目線というものの比較もあるのだが、でもやっぱメインはロッタちゃんとバムセがかわいく強く世界に相対するというところなのでそこだけ観とけばいいんじゃない? って思いますよ。
お話も『はじめてのおつかい』に引き続きそんな大きな事件とかは起こらない。キャンプに自転車に里帰りにと今回も盛りだくさんではあるが、それらはスケッチ的というか日記的な感じで特に前後の繫がりもなく描かれて、家族の危機的な大事件もロッタちゃんが成長するために越えなければいけないハードルとかも描かれない。日常が日常として描かれ、日常のまま終わっていく。でもそれが面白かったな。
先日の感想文では『クレヨンしんちゃん』とか『アルフ』のタイトルを挙げながら作品を語っていたと思うが、今作を観ながら新たに思い浮かんだのは『よつばと!』だったな。『よつばと!』も今にして思えばロッタちゃんシリーズというか、リンドグレーン作品に少なからず影響を受けた作品なのかもしれない。でもまぁあのノリですよね。子供が子供の世界の中から大人たちを見て、大人のジョーシキは子供のジョーシキとは違うの! と叩きつけてくる。んでそれを受けた大人もそれを諭しながらも、かつて自分が所属していた子供の世界の片鱗を垣間見てハッとすると共になんだかうれしくなっちゃうっていう、そういう映画ですよ。
だから作中でとにかくストレートに好きには好き、嫌いには嫌いを明確に突きつけるロッタちゃんのロック精神には痺れましたね。格好いいよ、お前…って思っちゃう。でも繰り返しになるがそれは今大人としてこの映画を観ているすべての大人がかつては持っていた世界の理不尽に対する反発なんですよ。だからこそグッとくる。早く大人になりたくて、雨が降る中肥料の山の上で仁王立ちするロッタちゃんとか微笑ましくてかわいいんだけど、それは切実な気持ちで大人の世界と対峙する子供にとっての英雄の姿でもあるのだ。
だから格好いいよね、ロッタちゃん。ときにガチで大人的なモラルから外れた言動をするときとかはそこにあるモンスター性が見えてしまうんだけど、だからこそ本作は素晴らしくてリンドグレーンの凄さも再認識してしまう。リンドグレーンは子供を舐めていないんだな。ただかわいい存在として大人たちに庇護されるだけのものとしては描いていないんですよ、子供というものを。自立した一つの人格として、大人の世界に侵蝕してくる異物として描いている。それはいつだって大人は見られているのだということを意識させるものでもあり、子供に見られて恥ずかしくない大人でないとな、ということさえ思ってしまうのである。それを踏まえてみるとロッタちゃんとバムセがかわいいだけでいいだろ、というのは率直な感想ではあるが、やっぱそれだけではない奥深い作品だよなーと思いますよ。
さすがリンドグレーン。そしてその世界をここまで精度を高く映し撮った映画版も素晴らしいです。
本作も良かったが『はじめてのおつかい』も良かったので、是非二本立てで観てほしいですね。面白かった。
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