渡邉ホマレ

劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血の渡邉ホマレのレビュー・感想・評価

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「鑑賞用マーダーミステリー」というジャンルのオモチロさは、作家側の仕掛けと、役柄に対する演者の理解度、双方のバランスだったりすると思う。

「鑑賞用」とわざわざ記載したのは、マーダーミステリーが「プレイ用」と「鑑賞用」では全く異なるバランスになるからだ。

マーダーミステリーという遊びはちょっとだけ特殊で、ミステリーというジャンルの特性上、演者は基本、1本のシナリオで1プレイしか楽しむ事ができない。それゆえにまっさらな気持ちで役柄をロールプレイするという楽しみがある。

コレが「プレイ用」で、自分のキャラクター設定に乗っ取ってさえいれば、演者は自由に演じる事ができる。

もちろん、その為に作家側が用意した仕掛けをスルーしてしまい、時には解決に至らずグダグダな結末になってしまう事すらあるのだけれど、その後の正解を知る、答え合わせで驚いたり楽しむ事ができるのが良いところでもある。

では「鑑賞用」とは何かというと、文字通り、他者がプレイするマーダーミステリーを観賞する楽しみ方だ。

他者のプレイを鑑賞して何が楽しいのか、と疑問に思うかもしれないが、コレが結構オモチロい。

同じ設定の役柄でも、演者によってガラリと雰囲気が変わり、犯人は同じでも導き出される結論や過程に大きな変化がある。例えば同じシナリオ…つまり鑑賞する側があらかじめ犯人を知っていたとしても、演者が変わる事で違った楽しみ方が出来るのが「鑑賞用」の強みだ。

違った演者で何度も観ているうちに、時折り名推理や名演技が飛び出す事もあって、それら「神回」に出会えたりすると儲けもの。

自分もプレイしてみたいなと思ったり、作ってみようと思えたりする。作ってみた。

この「神回」が発生する条件というのが、前述した「作家側の仕掛けと、役柄に対する演者の理解度、双方のバランス」だと思う。
例えどんなに作家側の仕掛けをスルーしてしまうジョーカーがいても、話の流れを元に戻すことの出来るバランサーがいれば、鑑賞する側のストレスの少ない「神回」に近づける事ができる。

とはいえ、演者としてはたった一度しか演じることのできない、しかも設定以外全てアドリブという大冒険…。「神回」に辿り着くのは至難の業だ。

まして「劇場版」など無謀の極み。
コストも掛からず、一発撮りで、派手な演出もいらない…。そういった意味ではお手軽だけれど、そんなにうまいはなしはない。

本作ももちろん「神回」ではない。
結構な役者が揃っているというのに、とにかくバランスが悪すぎる。
演技の上手い下手以上に、とにかくバランスが悪い。
また、劇場版という縛りのせいか、必ず犯人を当てて終わらなければならない為か…シナリオが突飛で、まあ…普通にオモチロくない。

やってる方は楽しそうだから、そういうバラエティ番組だと諦めて劇場に1900円払ってでも観たいというあなたにはオススメだけれど…あんまりオススメしない。

「斑目瑞男」シリーズでならば、「伊呂鳥荘・湯けむり殺人事件」がオススメ。
ベッキーというバランサーのおかげで、ジョーカー劇団ひとりが相殺された「神回」を楽しめる。