そーいちろー

ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版のそーいちろーのレビュー・感想・評価

3.5
当たり前だけど、タルベーラ映画だからよく分からん。酷く荘厳で、美しい白黒画面。過剰なまでの長廻し(今回改めて観ると、ここまで長廻しをしようとすると、相当に作為的なカメラポジションが求められることがよく分かる)。それはいつものタルベーラ的であるし、何かよく分からない災厄的な何かが平穏な街で過ごす人々に降り注いでくる感じも、いつも通り。前に本作を観たのは11年前で、その時は深夜のオールナイトということもあって、より一層の昂揚感があったのかもしれないが、今回はそこまでの神話的体験までには至らず。タルベーラの凄まじさは徹底したミニマリズム体験を長廻しのカメラを通じて観客に行わせることで、感覚の変質を起こすところにあるのが体験的な凄さに繋がっていると思うのだが、そういう意味で言うと、サタンタンゴという究極的なタルベーラ体験をしてしまったが故の物足りなさなのか、それとも自分自身の感じいらなさなのであるのかは、よく分からん。タルベーラ作品はある種の宗教的背景(望まぬ来訪者、巨大な見世物的存在(トロイの木馬的))、ハンガリーの歴史的背景、その渾然一体とした世界観が押し寄せてくる感じが魅力であるのだが、本作はそういう意味で言えば、やはりタルベーラ的と言えばタルベーラ的だった。雰囲気映画である部分と、そういう背景を理解しきれていない自分という両面があるので、率直に判断を下すことができない。そういう一本。群衆心理の恐ろしさと、合わない主旋律というものの関係性なんかも絡めていて、とにかく一言でこうとは言い切れない作品。
そーいちろー

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