そーいちろー

カラオケ行こ!のそーいちろーのレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
3.5
設定が色々ありえないし、おそらく本作の最大の魅力の一つである狂児と聡実の疑似的な同性愛的関係性もあまりピンと来るものでなかったのだが、映画としては非常に良かった。山下敦弘監督は、古き良き日本映画の作り手としてウェルメイドな作品を作り上げてきた。さらに本作は大阪を舞台にした地方映画の趣もあり、そこも良かった。失われた30年の真っ只中、世紀末による変化もなく、終わりなき衰退を迎える日常を受け入れざるをえなくなった「ゼロ年代」において、脱力しながらも全力、そして終わりある日常を受け入れてこうとした青春を描いた「リンダリンダリンダ」は、奇跡的な作品だったわけだが、本作もヤクザと中学生、という突飛な設定だけではなく、中学校三年の総決算としての合唱、決して華やかではないが確かに存在する文化系の青い炎としての映画を見る会、ヤクザのカラオケ大会と声変わりを迎える主人公の最後の合唱祭、という思春期の変化を的確に捉えた映画表現を入れ込んでおり、ただならぬ作品へと仕上げてくれている。副部長の女子と、後輩の和田との関係性も素晴らしい。和田と聡実の関係性(というより和田が向ける聡実への感情のコントラストをどう見るか)も実は本作の注目点だろう。映画的に物凄いテクニカルと言えばそういうわけではないんだけど、音楽シーンや劇中で鑑賞している映画など、細かなところがよく効いている。良い映画。
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