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ストップ・メイキング・センス 4Kレストアのnntmkazuyotaroのレビュー・感想・評価

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まぁ、言わずもがなな大傑作。ずっしり重い89分をIMAXで観れて感無量。スーツもいつもよりデカかった。この作品の前じゃ『アメリカン・ユートピア』が霞んで見えると言われても仕方がないと思う。
それでもわたしは、今のデヴィッド・バーンの方が素晴らしいと胸を張って言える。それくらい彼のキャリアはわたしの大好きなコメディに影響を与え、わたしに影響を与えた。そんな彼が辿った道のりがわたしは好きで好きでたまらない。
作品として映画として『ストップ・メイキング・センス』が優れているということは百も承知で、この映画の素晴らしさは誰かに解説してもらうとして(ちなみにわたしは、This Must Be the Placeでランプと踊るのとトムトムクラブがあるのが好き)、わたしは何故デヴィッド・バーンが『ストップ~』から『アメリカン~』へ辿り着いたのかをわたしの視点からちょっと書きたいと思う。

わたしはこの映画の前にこの映画の冒頭部分をオマージュした偉大な映像作品に出会っている。いわば、わたしにとって『ストップ~』はその作品の「元ネタ」なのである(トーキング・ヘッズや曲は知ってた)。そしてその作品こそがわたしの“偉大なる変わり者”我が愛しのフレッド・アーミセンが手がけた『Documentary Now!』の“Final Transmission”なのだ。
どんな内容なのかはネタバレだし、気になる人はIMDbを翻訳にぶち込んでもらえばいいので、ここでは泣く泣く割愛する(ざっくり言うとミュージシャンあるある)。日本では未配信なのでセルを買って英語で見るしかないのだけど、この“Final Transmission”の冒頭はYouTubeでも見れるのでぜひ暇なときにでも見て欲しい。
わたしはこれを見てわけもわからず感動したし、そのユーモアで彩られたヘンテコな世界に感謝した。その後、元ネタである『ストップ~』に触れその愛は何億倍も増した。トーキング・ヘッズのカッコ良さもフレッドのヘンテコさもさらに好きになった。大好きな作品が大好きな作品を連れてくるってことは珍しくないけれど、この体験は別格だった。ユーモアと愛に溢れたオマージュの素晴らしさをわたしに教えてくれた最初の作品かもしれない。

ミュージシャンあるあるというのはフレッドのお得意のネタのひとつで、彼のスタンダップコメディでも度々披露されている。“Final Transmission”は、そんなお家芸の代表作であり、フレッドとデヴィッドを引き寄せた二人の転機となる作品だ。
ミュージシャンとも親交が深いフレッドなんだけど、近年はデヴィッド・バーンとNYで特に仲良くしていると言っても過言ではない。そしてフレッド周辺のコメディアンの作品にもデヴィッドは出演したり音楽を担当したりしている。
ジョン・ムレイニーのミュージカルコメディ(ジョン・ムレイニーのサック・ランチ・キッズ:Netflix)ではアナ雪のエルサに扮して自作の曲を披露、エイミー・シューマの半自伝的ドラマ(ライフ・アンド・ベス:Disney+)ではエイミーが演じる人生に疲れた女性をデヴィッドがそっと抱きしめるシーンがある。この二つのデヴィッド・バーンをこの『ストップ・メイキング・センス』から誰が想像しただろう。
SNLにイーロン・マスクがホストで出演した時、自身を「初の自閉症のホスト」と言ったことに「デヴィッド・バーンは?」とコメントが付いたのは一昨年くらいの話しなんだけど、控え目に言っても神経質で偏屈な人という印象が世間的にも強いのではないだろうか。少なくともコミュニケーションが得意なタイプではないよね。それは、『ストップ~』のセルに入ってる記者会見を見ても一目瞭然なんだけど。
特に若い頃はずば抜けたセンスの持ち主であることはもちろん、「頭の中どうなってるの?」ってくらい個性的で実験的なアイデアとやりたいことで溢れていたんだろうなと感じる。それ故に周囲とは上手くバランスが取れず孤立することもあったと思うし、そんなことは気にも留めてなさそうなところがこの当時のデヴィッド・バーンの魅力だろう。

ここ数年、そんな彼からは想像もつかない穏やかで平和的でユニークな姿をコメディ界隈で目にすることが増えた。家に帰りたいと歌いながら何処にも帰ってなさそうな彼が、ここ10年くらいはちゃんとコミュニティーへの帰属意識がある。それが『アメリカン~』の作風に繋がったと思っているし、コメディとフレッドを含むNYの仲間との出会いが彼を変えたんじゃないかと勝手に思っている。

どっちが良いとか悪いとかではなく物事は新しくなるだけってのはNYコメディ仲間の一人であるマイク・バービグリアの名言。正にデヴィッド・バーンは『アメリカン・ユートピア』では新しくなった姿を見せてくれたのだと思った。
それは、これまでの彼とは違う思考の中へ内へ内へと深く潜り込んでいくのではなく、より広い現実へ思考の外へ向けて語りかける創作であり、その根底にあるのは「ヘンテコなアイデアを理解されないと嘆いたり開き直ったりするのではなく、そこにユーモアを足して世界と繋がって」というコメディの精神そのものだ。(これは、ポップカルチャーが世界に必要な理由、人類の存在意義のような気がしている)

なのでフレッドとデヴィッドが、出会ってなかったらなかったんじゃないって思えて『アメリカン・ユートピア』のことは特別に感じている。そして『ストップ・メイキング・センス』が無かったら“Final Transmission”もなくてフレッド・アーミセンとも出会ってなかったかもしれないし、こんなにもコメディを好きでいることもわたしらしくいることもできなかったかもしれない。そう思えるくらいわたしにとってデヴィッド・バーンは〈最初の人〉だ。
『ストップ・メイキング・センス』がリアルタイムの人たちを羨ましく思う気持ちと『Documentary Now!』がリアルタイムだと言える誇らしさ、それらがちゃんとわたしの中で両立(同居?)していること、きっと二人は喜んでくれると思うんだ。この気持ちが本人たちに届く日を夢見て。カキコ

直近のデヴィッド関連としてジョン・ムレイニーのスタンダップコメディ『ベイビーJ』(Netflix)がある。これには音楽と…で参加しているデヴィッド。友だちに感謝その気持ちを日々忘れないでいよう、他者に支えられた自分らしさもあっていいと思える内容にデビッド・バーンの音楽がそっと寄り添う。
めちゃくちゃ笑って気がついたら泣いてしまっていた、わたしの2023ベストスタンダップコメディ。「ここがわたしの帰る場所」まるでそう言っているような、仲間〈友だち〉と一緒にいる時のデヴィッド・バーンのふにゃけた顔もわたしはとても好き。出演はしていないが、そんな彼の顔が瞼に浮かぶ感慨深い作品だ。

というわけで、高校を卒業するまで趣味の友だちがひとりもいなかったわたしなので、この『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』をIMAXで友だちと一緒に観れたことがとっても嬉しかった。誘ってくれてありがとう。隣の席の白髪の知らないおじさんが何度か叫んでたのも最高だったよ。
好きという気持ちだけでひとりで過ごした時間も素晴らしいものだったけど、誰かと共有できる喜びを知ったこともわたしにとっては大事なことだった。映画や音楽を通してできた友だちはわたしの宝物です。

はじめて“Final Transmission”を見た日のことを忘れない。なので今年は、この文章にコメディ関連でちょこちょこ足して(おすすめのシットコムとかドラァグクイーンとか)、なおちゃんとzineをつくりたいです。(毎年するする詐欺でごめんなさい)
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