第74回ベルリン国際映画祭にブリュノ・デュモンの新作が来たのだが、予告編を観て度肝を抜かれた。《スター・ウォーズ》なのである。ライトセーバーによるバトルシーン、スター・デストロイヤーを彷彿とさせるゴシック様式教会型の戦艦が姿を現す。だが、これは単に《スター・ウォーズ》パロディ映画ではない。『プティ・カンカン』最新作でもあるのだ。閑静な田舎町を舞台に、宇宙戦争が繰り広げられる。そこに、おとぼけ刑事であるRoger Van der Weyden(調べて気づいたのだが、恐らく北方ルネサンス画家ロヒール・ファン・デル・ウェイデンから名を拝借している。フランドル、写実と形而上の関係性で監督の作風に引き込んだのだろうか?)が紛れ込むのである。実際に観てみると、『プティ・カンカン2:/クワンクワンと人間でないモノたち』の正当な続編であり、空から降ってくる黒いベトベトンの正体が判明するファン歓喜な作品へと仕上がっている。
本作はゴシック様式であるサント・シャペル戦艦とバロック様式カゼルタ宮殿戦艦が宇宙から地球支配を巡って対立する話である。カゼルタ宮殿サイドからは黒いベトベトンによって人間を宇宙人に置換しているらしく、既に田舎町ではある程度新人類へと置き換わっている。地球では、人間に擬態する宇宙人たちが暗躍している。本作は、戦争や政治によって人々が統治者の意図によって塗りつぶされてしまう駒のような人間像を風刺した作品となっており、露悪的な茶番となっている。ここで重要となってくるのはRoger Van der Weydenの存在だろう。地球の危機にもかかわらず、Roger Van der Weydenはのんびりとした店舗で捜査している。まるでラヴ・ディアス映画のように、静かに地方都市が支配されていく様を担わせているのだ。