ささい

ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストアのささいのレビュー・感想・評価

3.5
2024年3月25日
まず初めに、坂本龍一の素晴らしい音楽に。
あれほど壮大に、生き生きと情景を伝える、音楽は初めてだった。エンディングの後のただ暗転した画面の中で、彼の生み出した音楽に没入させる。その時の走馬灯的な溥儀の人生の様、形容することの出来ない瞬間で、その時に私は時間を忘れたのだった。

彼の人生は彼の飼うネズミのように、定められた運命の流れに逆らおうと試みたものの、逃げ出すことは出来ず、ドラマチックな時代の流れに取り込まれてしまった哀れなものだった。しかし彼は常に流れに逆らい続け、心が折れるまで自由を追い求めた。
彼がどう生まれ、どう生きて、どう死んだか、少なくともそれを残しただけで何故か嬉しい。

ベルトルッチらしいドラマチックな構図、色彩、生々しい演出、政治性を交えた脚本、そして光と影の劇的なコンビネーション。画としての美しさが実に良かった。またそこに初期の坂本龍一らしさのある音楽。見ていながら坂本龍一らしい音楽だなと感じさせるものがあった。

特に幼少期の溥儀の即位のシーンのあの迫力は恐ろしいものだった。あとは、再即位のパーティーで、皇后の乾杯の声と共に皆が乾杯のシーンには鳥肌が立った。

ベルトルッチの最大の魅力は光と影が生み出す劇的かつ効果的な演出だと思う。この映画でも、やはり光と影がメイン級の演出をこなしていて、特に溥儀が即位した直後の父親とのシーン、差し込む日差しが彼を照らしたところ、また甘粕がフィルムで皇后を撮ろうとする、彼の顔にできるハイライトとシャドウも美しかった。しかしそんな甘粕ではえ、最後には自殺する。極端な政治が、混じり合うことの無い極端な結果、絶対的な成功か失敗か、まさに光と影を映し出すようである。
またベルトルッチは政治に振り回され、取り残された哀れな人間のその心の虚無感を描くのも上手なのだ。
ささい

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