むさじー

幕末太陽傳のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

幕末太陽傳(1957年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

<落語ネタだが笑いだけではない群像劇>

冒頭、撮影当時の品川(舞台となる「さがみホテル」)が映され、昔に遡っていく。そしてこの宿を舞台にして様々な出来事が起こる「グランドホテル形式」の構成でテンポ良く描かれる。
落語ネタを題材に、芸達者を集め、特に佐平次を演じるフランキー堺は落語さながらの滑舌のいいセリフ回しとコミカルな動きで器用な男を演じ、一方で病んでいく男の影をさりげなく漂わせている。
宿に絡む様々な人物が登場し、それぞれの事情が絡み合っていくのだが、破綻がなく、警戒に物語が展開していくので、全く退屈することはない。
落語ネタのコメディ映画なのだが、登場人物の生き様や人間臭さには妙なリアリティがあって、これは笑いだけでなく、人間の欲や愚かさ(主人公にあっては病を抱えた辛さ)まで描き込んだゆえのものだろう。
60年以上過ぎた今観ても古さを感じさせない精巧な作りになっている。
本作には、実は「幻のラストシーン」があったそうだ。
作品では墓場から駆け去るシーンで終わっているが、脚本段階では墓場のセットを突き抜け更にスタジオの扉を開けて現代の街並みを走り去って行くものだった。すると冒頭のシーンと連鎖するのだが、周囲の反対でボツになったという。
これには更に後日談があって、川島の死後、反対したことを悔やんだ今村昌平(本作の共同脚本・助監督)は、自身のドキュメンタリー映画「人間蒸発」でラストシーンの部屋がセットだと明かすことによって、ドキュメンタリー映画と現実社会の境界の曖昧さを問いかける、という演出を行っている。
更に言うと、寺山修司「田園に死す」のラストで、東北の旧家のセットが崩壊すると70年代の新宿が現れるという演出も、この影響がうかがえる。
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