アヤネ

Royal Shakespeare Company: Richard II(原題)のアヤネのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

2024年92本目。
正直完全に理解してる訳でもないので評価つけるのはし難い面もあるけども、シリアスとコミカルの緩急が飽きさせず、最低限の舞台装置も音楽も美しく、そしてそれよりなによりデヴィッド・テナントのリチャードが美しすぎるので4.5は固いはずと確信もしてる。彼が美しすぎるあまり悲劇に拍車がかかってるのは間違いない。
DTファンになったあたりで一度見て、字幕ありでも笑えるくらいに内容が分からなかったので戯曲を読んで再挑戦した今回。おおむね戯曲通りなので読んだら流れはわかるし、戯曲片手に時折一時停止しながら見てみたら、逆に変えてるところや足し引きしてるところにも気づいて興味深かった。
いちばん違うのはリチャードを殺すのがオーマールってところだけど、あのふたりの関係性を戯曲よりも強く描いてるから、ラストでより一層リチャードの悲劇性が高まるんだよね。そのぶん可哀想ではあるんだけど、ドラマチックだしわかりやすい展開になってるから、見てるこっちも没入できていい。つか戯曲だと、その暗殺者の役割が急に出てきたエクストンで誰おま状態なので、そういう意味でもわかりやすかったな。戯曲だとそういうよくわかんない人が他にも度々出てくるけど、今作ではソールズベリーが割とその辺を一手に担ってたからこう、全体的にキュッとなっててそこもよかった。
NTLのオセロー見た時も思ったけど、戯曲を知ってから観ると、セリフが同じでも印象ががらっと変わるから面白い。文字情報だけじゃなくそこに感情が乗るわけだからそうなるのも当たり前なんだけど、「こんなテンションで喋ってたのか!」とか「文字じゃそうでも無いけど、この間(マ)で言われたらそりゃお客さん笑うよね〜」みたいなのも新鮮に感じられて楽しかったな。ヨーク一家の嘆願のシーンあんな面白いと思ってなかったわ笑 こここんな面白くていいんかと思いながらめっちゃ笑った。母ちゃん強すぎる笑
あとリチャードとオーマールのふたりのシーンは、セリフがわかってからだと解像度がぜんぜん違ったな。いやまぁそりゃ当たり前なんだけど、リチャードの孤独とかオーマールの愛情とかがはっきり見えて切なかったわ。「Well, well, I see. I talk but idly, and you mock at me」の諦めが滲む感じとかね…あそこ好きすぎて何回も見てしまう。またキスに至るまでのリチャードの表情がな〜!あの状況で、自分を心から想って泣いてくれる存在が隣にいたらそりゃ愛しちゃうよね〜!ってなった。まぁあの…ラストがね…あの…アレだけど…。アレに向けての助走だったんだろうけど……なんかそう思うとつらいな。しかしあのオーマールに王冠被せるのはたぶんアドリブよね。オーマールめちゃ笑ってるしテナントさんちょっとびっくりしてる感じあるよね笑 和むわ。
戯曲と比べて、今作のテナントさんのリチャードは無邪気さと繊細さが際立ってたなという印象。だから幾度かある嘆きのシーンも、大人が絶望を吐露してるというよりは子どもの癇癪っぽく見えるんだよね。王冠なかなか渡さないシーンとかもまさにそう。愚かしくもあるんだけどそこが彼の可愛げでもあり、おかげで絶妙に魅力的な存在に仕上がってるんだなぁとしみじみ思ったりもした。終盤、玉座に座っての「And shall I have?」とかもう、表情、声の震え、ギュッと握られた拳から痛々しさが溢れててね…精一杯虚勢張ってる感じがとても心に来たな。牢での「I wasted time, and now doth time waste me」も自分の言葉で自分を傷つけてる様が可哀想だった…いやほんとにリチャード可哀想だったよ。
ただ、ほんと、これは彼自身の見目の良さというのも多分にあると思うのだけど、幼さや可愛さや哀れさだけでなく、王としての説得力がすごいんだよね。立ち姿、視線の動かし方、果物をつまむ指先ひとつひとつに、王としての気品とかプライドが滲み出てる。「彼こそ王である」って感じがする。だからこそあんなにボロボロな姿で悲惨な最期を遂げたにも関わらず、ラストシーンであの凄みが出るのよな。幽霊オチは王道も王道の展開だけど、あれはカメラワークがあまりに良い仕事しすぎてるのもあってとてもゾクッとなったし「すすすす好き〜〜〜!!!!!」ってもなった。「ただ見てる」ってだけなのがまた不穏でいいんだよね。オーマールに投げかけた「The guilt of conscience take thou for thy labour」が、ボリングブルックにブーメランのように返ってきてる感じもして。うん。ほぅと息を漏らしたくなってしまう、いいラストだったな。
そしてそんなざわざわしちゃう幕切れだけども、ちゃんとカテコが入ってるおかげでホッとできるのもいい。にっこにこで降りてくるテナントさん可愛い〜!和む〜!美しさの権化〜!好き〜!!!ってなれる。しかしほんとに舞台映えするひとだわ。いつか舞台に立つ彼を生で見てみたいもんです。
アヤネ

アヤネ