回想シーンでご飯3杯いける

ザ・ペーパーの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

ザ・ペーパー(1994年製作の映画)
3.8
恐らく、かなりひっそりと公開されたと思われる'94年の映画。実は「ダ・ヴィンチ・コード」、「ビューティフル・マインド」、「アポロ13」などで知られるロン・ハワード監督による作品である。

主人公、ヘンリーは二流新聞社の副編集局長。彼は、翌日の朝刊に掲載予定だった黒人少年2人組による殺人事件が、実は冤罪であるというスクープを入手する。これに対し、今からスクープの裏を取っていたら、印刷のスケジュールが押してしまい、多額の経費ロスが出てしまう為、"殺人事件の犯人はこの2人"という見出しのまま押し切ろうとする編集局長(女性)。2人の対立を軸に描かれる、かなり熱い映画だ。

物語の大半が編集部内で展開するので、三谷幸喜の「ラヂオの時間」に近い密室劇とも言えるのだが、本作では編集局長と副編集局長が、印刷機を前に殴りあいまで繰り広げてしまう、かなり強烈な内容になっている。未来のある少年に犯罪者のレッテルを貼ってはいけない!というヘンリーの熱い思いに心が打たれる。メディア、企業等による事実の隠蔽が取り沙汰される昨今において、見るべき部分も多いだろう。

「事実を伝える事の大切さ」を描いたメッセージ性もさることながら、僕が感心したのは、そのメッセージを伝えるために用意されたサブ・ストーリーと演出の豊かさだ。特に、記事の差し替えシーンと、ヘンリーの奥さんの出産シーンをシンクロさせた後半の演出が素晴らしい。つまりこれは"生みの苦しみ"を表現しているのだと思う。編集部や印刷機の映像だけでは、メッセージばかりが空回りし、映像作品としてはおそらく面白みの無いものなってしまっただろう。