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五瓣の椿のakrutmのレビュー・感想・評価

五瓣の椿(1964年製作の映画)
4.0
父親を無視して男遊びに耽っていた母親への復讐のために、母親と関係のあった男性たちを次々と殺していく若い娘を描いた、山本周五郎の同名小説を原作とする、野村芳太郎監督のドラマ映画。

前半は、岩下志麻が演じる娘が中年男性を翻弄していく様子を、父親と母親の関係をフラッシュバックしながら描いている。映画の後半は娘の視点ではなくこれらの殺人事件を追う若い町役人(加藤剛)の視点から事件を描くなど、表現上の工夫は見られるが、ストーリー的には単純。本映画の見どころはそこではなく、若い娘おしのを演じた岩下志麻の演技に尽きる。

このときまでは清純な役柄がほとんどであった岩下志麻がはじめて悪役(と言っても、純粋な娘なのだが)に挑戦した作品であり、可愛い顔をしながら無慈悲に男性を殺していく姿の中に、これ以降のキャリアで見せるような悪役(ヒール)の萌芽をすでに見ることができる。ブルーリボン賞主演女優賞を受賞するなど本作の演技は高く評価され、それまでは成り行き上なんとなく女優を続けてきた本人にとっても、本格的に女優として生きていくことを決意した作品であると、春日太一のインタビューに答えている。野村芳太郎監督も岩下志麻を本格的な女優にすることを意図して、主役に起用したそうである。

かんざしで殺して現場に五瓣の椿を残していくという演出は、のちの必殺シリーズを思い起こさせる。
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