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ブレイブのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ブレイブ(1997年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

アメリカの片田舎で生活する事を余儀なくされている、ネイティブ・アメリカンのラファエル。社会から冷遇され、仕事に就くのもままならない彼は、貧困から家族を守るためにスナッフ・ムービー(実際に人を殺す映画)への出演を決意する。撮影までの日々を、家族との最後の幸せな日々にしようとするのだが…。

他に方法はないのか…?と、鑑賞中はずっと考えてしまう。
自分の生命を売って、家族に金を残す主人公の決心に、胸が痛くなる人間ドラマの佳作。
公開当時、スナッフ・ムービーというスプラッタな予感がする触れ込みがあったため、避けていたので今回が初見。
しかし、それは単に話の取っ掛かりで、主な内容はアメリカではネイティブアメリカンがどういう扱いでどういう生活なのかを描くことに挑戦している。
バイオレンスやサスペンス目的で見る人は肩透かしを喰らうし、差別問題に興味のない方は退屈な映画かもしれない。

デップ演じる主人公ラファエルはスナッフムービーに出る代わりに大金を貰い、スクラップ置き場に住んでいる家族4人で最後の一週間を過ごす。
大金と言っても、普通なら命を賭けるには程遠い端た金なのが、ネイティブの命の安さを表している。

登場するネイティブたちはゴミ溜めのような場所に住んでおり、恐らくリサイクル品や資材を売って生活しているのは伝わる。

しかし、見た目の見窄らしさは伝わってくるが、貧しい日々の切迫感みたいな物は、残念ながらあまり伝わってこない。
人々は空腹にならないように?日がなTVを見て、のんびり過ごしている。
また、水道がないのか?汚ない川の水でシャワーを浴びたり、水を汲むシーンはあるが、「真相はこんなにも悲惨なのだ」と、ネイティブアメリカンの差別の実態に興味の無い人にも「真剣に考えて貰いたい」という気迫は感じられない。

住民の無気力さもネイティブを表しているのかもしれないが、どこまでが衝撃の実態なのか分からないため、映画の重みを削いでいるのが難点。
スナッフムービーに出るネイティブが非常に多いという実態が本当にあるなら別なのだが。
何より若いデップが美形でカッコ良く、汚ない格好をしても清潔感があるため、視点や論点が定まらないのである。(彼に罪はないが)

主人公は貰った前金で、家族のために新しい家財道具を買い、住人たちも楽しめるようゴミ溜めを華やかに飾り付ける。
住人や子どもたちも喜び、居住地は活気に溢れ、妻との冷めた関係も修復する。
夕日をバックにした荒野でのラブシーンは、主人公の末路を想うと切なくも美しい。

本来なら暗く悲惨なストーリーを、美しくハートフルな映像で描いたのは、当時デップが出演したティム・バートンやエミールクストリッツァ、ジム・ジャームッシュ監督の影響だろうと想像できる。

アイドル的扱いを避け、一味違う癖のある役をワザと選んでいた若き日のデップらしいといえば、彼らしい選択だ。
彼の熱意に惹かれ、マーロン・ブランドが共演するのも納得できる。
ブランドは「ゴッドファーザー」でアカデミー主演男優賞に選ばれるが、「ハリウッドにおけるインディアンをはじめとした少数民族に対する人種差別への抗議」を理由に受賞を拒否して話題となった人物だけにデップの監督作に華を添えたかったのだろう。

とはいえ、終盤は考えさせられる。
主人公の金回りの良さに嫉妬し、お溢れに預かろうとしたチンピラを、主人公が殺してしまっても騒ぎにならない生命の軽さ、そして「娼婦が身体を売るのと同じだ。何が悪い?」と、神父に問いかけるシーンは現在にも通じる格差社会の縮図だ。

とても豊かなアメリカとは思えない現実があると改めて勉強させてくれることは確かだ。
ネイティブアメリカンの現在を描いた映画は、極めて少ない。
現実のネイティブ居留地は、本当にあんな所なのだろうか?と想いを馳せるキッカケになるだろう。

ラストに主人公は律儀にもスナッフ・ムービーの撮影に臨むべく、冒頭の場所に戻る。
地獄へ向かうかのようにエレベーターの重いシャッター音で映画は終わる。
金を持ち逃げせず、約束を守るのは貧しくとも誇り高いネイティブの高潔な精神性を表しているのかもしれない。

ジョニー・デップが初めて監督&脚本&主演した本作は、自らのルーツであるネイティブアメリカンの世界を描いた作品。
娯楽性は少ないが、デップ自身の芸術性が感じられる一作だ。
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