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ファーゴのpanpieのレビュー・感想・評価

ファーゴ(1996年製作の映画)
4.2
「スリービルボード」で主演だったフランシス・マクドーマンドを観てからどうしても観直したかった今作。
でも出来ればもう観たくなかった今作。
以前に観た時もう出てくる人物がクズ過ぎて観た後こんなの二度と観るか!と思ったものだ。
観直す日が来ようとは!笑
先日のアカデミー賞で主演女優賞を見事受賞したフランシス・マクドーマンドの素晴らしいスピーチが記憶に新しいがアカデミー賞授与式より前に観ていたのにレビューを上げるのがが遅くなってしまった。



あの物悲しい胸を締め付ける曲が冒頭に流れる。
久しぶりに聴いた。
吹雪の中一台の車が警察車両にレッカーされて行く。

ノースダコタ州ファーゴ。
自動車販売店の営業部長ジェリー・ランディガードは前科者の下請けの修理工の仲介で架空の売り上げで作った借金を返済する為妻の誘拐を思い付く。
新車と身代金の前金4万と引き換えに妻の狂言誘拐をその筋の二人に依頼する。
間に入った修理工の話と最初から食い違っており既に嫌な予感しかしない。
営業部長の役職に就いているものの妻の父親が経営する自動車販売店なので婿に取り敢えず役職を与えているだけ。
そして作戦は決行された。
物語は思わぬ方向へ進んでいく…



フランシス・マクドーマンドを観直したくて観たのだけどかれこれ20年前の映画なのでマクドーマンドもまだ若くてしかも今作では妊婦の役だし「スリービルボード」の怖いもの無しの母親とは似ても似つかない。
マージより好き嫌いで決められない個性的な母親を熱演していたミルドレッドに肩入れしてしまうが
この時点でミルドレッドを演じるとはマクドーマンド自身予想もしなかった事だろう。
「ファーゴ」でアカデミー賞主演女優賞を受賞しているそうだが「スリービルボード」で本物の主演女優賞を獲ってもらいたいと願っていたら予想通り見事受賞!
おめでとう、フランシス。
貴女の演技は文句なしでした。


今作ではマクドーマンドより共演した男性俳優があまりにも強烈で個性的で甲乙付けがたい。
ウィリアム・H・メイシー、スティーヴ・ブシェミ、ピーター・ストーメア、本当に個性的な面々。
誰もが一度観たら忘れられない顔をしており強烈なインパクトがありこの3人を覚えたのは間違いなく今作だと思う。

ウィリアム・H・メイシーはジェリーの役が本当にぴったりだった。
嘘に嘘を重ねて取り繕う嘘笑いが板に付いていた。
NO!とは言えない役がぴったり。
本当にうまい。
こんな人国籍問わずどこにでもいそう。
スティーヴ・ブシェミとピーター・ストーメアの車のシーン。
短いのだけどそれぞれの性格を表している。
無口で相手の喋った事が頭にすぐ浸透しない役のストーメアが朝食べたパンケーキをまた昼に食べたいと言うのを小馬鹿にしてブシェミが鼻で笑うと今にもキレそうな顔で睨みつける。
ここから二人のコンビが既にうまく行っていない事が分かる。
普段なら絶対に組まなかった相手同士だろう。
怖かったりどこか変だったり少しずつずれた人間同士の会話が面白い。
その少しずつのズレが今作で描かれた事実に基づいた悲劇を招いていく。

今作の舞台となったミネソタ州ブレーナードはコーエン兄弟の出身地ミネアポリスにほど近い。
ファーゴはノースダコタ州だが殆どミネソタ州の州境に位置する。
今作は事実に基づいておりコーエン兄弟は同郷であるが故に映画化したかったのかもしれない。
アメリカは広いから場所によってそれぞれ違いがありその土地の人間だから分かる独特の匂いを醸し出している。
私も雪国に住んでいるので車を出したくても積もった雪やフロントガラスに凍り付いた氷を削り落さないと車を出せず今まさに雪と格闘中の私には身近に感じられて氷点下の寒さがひりひりと映画から伝わってくる。
寒くて冷たい感触が手に取るように分かり雪の風景が美しいだけではなく痛くて辛い。

町の入り口に立つアメリカ伝説の開拓者ポール・バニアンの銅像や等間隔に街灯が設置された広い駐車場に停めた車を空撮した雪の白と街灯の黒のコントラストが美しかったり印象的なシーンが多い。

観たくないと思っていたが観直して良かった所もあった。
クズだらけの登場人物の中でマクドーマンド演じるマージとジョン・キャロル・リンチ演じるノーム夫妻の思いやり溢れる夫婦の姿だった。
今作を見た頃私は結婚していたがまだ親にはなっていなかった。
今いい歳になった私にはこのガンダーソン夫妻の若くはない夫婦が子供を授かりマージは酷い事件を担当しているが家に帰って優しい夫に癒されておりだからこそ忙しい傍らこの寒いのに釣りに行くのかな?夫の好きな釣り餌のミミズを買う事を忘れない。
お互いを気遣い思いやりに溢れている。
警察官の妻と売れない画家の夫。
いつも食事を一緒にしている所も印象的だった。
マイク・ヤナギタにオシャレをして会いに行くから元カレだったのかな?
ノームの事も知っていたから幼馴染?
でもノームには会いに行く事は言わない。
これも思いやりかな。笑
何もなかったし第一何か起きる為によそ行きに着替えた訳じゃない。
いくつになっても元カレには綺麗に見せたかった女心もちょっと分かる。


フランシス・マクドーマンドが「スリービルボード」のミルドレッド役を引き受けるにあたり今の自分の年齢だとミルドレッドが晩婚になってしまうから引き受けられないとマクドナー監督に断ったそうだ。
確かに南部の女性は婚期が早そうなイメージがある。
もしかして「ファーゴ」の頃のマクドーマンドなら計算が合うのかもしれない。
だけど娘を殺された復讐の鬼となったミルドレッドは今の彼女でないと演じられなかったんじゃないかな。
今作を観てそう思った。
歳をとるのも悪くないのかもしれない。
皺が深くなるのは仕方がないけど人間の幅が深くなっていればいいのかな。
そんな風に思った。
最近以前観た事のある映画を観直す事が多く自分の感想もかなり変わっている事に気付く。
「ロング、ロングバケーション」の夫婦まで行かなくとも観直したくなかった今作にも理想の夫婦像だったガンダーソン夫婦がいた事を再発見出来たし。
観直し恐るべし!


オスカー像が一時盗難に遭ったそうだけど無事にフランシスの手に戻って本当に良かった。
「ファーゴ」の貴女より「スリービリボード」のめちゃくちゃで目的の為なら手段を選ばない怖い母親を演じた鬼気迫るミルドレッドを演じた貴女の方が主演女優賞に相応しいと心底思いました。
今度はどんな役で驚かせてくれるのか今からとても楽しみにしています。
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