よねっきー

アラビアのロレンス/完全版のよねっきーのレビュー・感想・評価

4.4
スクリーンいっぱいの砂漠のなかで、蟻みたいに小さく人影が映る。これ、VHSで観た人とか何も分かんなかっただろうな。スマホで観ても何も分かんないと思う。それくらい、劇場で映画を見るのが当たり前だった時代の映画だ。まだ一応スタジオ時代だし。映画が元気な産業だったことがよくわかる。

前半が壮絶。60年代の映画だけど、CGかと錯覚するような常軌を逸したショットに溢れてる。マッドマックスでも観たような砂嵐のショットがあったり、ちょっと訳がわからない。ガチの砂嵐が出るの待って撮ったみたいなこと?
物語は「行って帰ってくる」というシンプルな構成だし、軍服を燃やすところとか、助けた相手を処刑する展開とか、テーマ性も分かりやすく、普通に冒険ものとして面白く見れる。それだけに、没落の過程を描く後半はやや複雑に思え、ちょっと退屈してしまう。ちゃんと物語も楽しみたければ予備知識は必須。

アリが登場するシーンはやっぱ格別。地平線のはるか遠くから、黒い影が浮かぶのが見える……。人間とも亡霊とも見分けのつかないそれが、人間だと分かり、男だと分かり、仲間ではないとわかる……みたいな。地平線と人間の距離感だけの、最低限のサスペンス。

冒頭に出てくる「おれはロレンスと握手もしたんだぞ」というおじさんが、本当にロレンスと握手しかしてないのとか、良かったな。利用され、狂気に堕ちていった英雄。
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