いの

Love Letterのいののネタバレレビュー・内容・結末

Love Letter(1995年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます



昨年末、映画館で「ラストレター」の予告篇をみた。そしたら、どうしてもこの作品をもいちど観たくなった。美しすぎる中山美穂。少女とオトナとの丁度、境界線に立っているような、儚げで可憐な美しさ。消え入りそうな小さな声が透き通っている。中山美穂の声を全部聴きたくて、耳を傾ける。横顔が特に美しい。横顔のショットが多いのは、この映画が、2人でひとくみ(蝶々結びみたいね)、ということにも関係しているのかもしれない。


①二人の藤井樹。中学生の男の子と女の子。図書室。貸出カード。プルースト。②二人の中山美穂。彼女が演じる渡辺博子と藤井樹。婚約者を亡くした人と、父を亡くした人。お手紙が行ったり来たり。現在と過去を行ったり来たり。③ふたつの場所。神戸と小樽。どちらの景色もとても美しい。坂道。雪。桜。
監督は、美しさを捕まえて、ぎゅっとするのがとても上手いと思う。その瞬間にしか捕まえられないものをとらえて、ぎゅってするの。


自転車のペダルをまわしてつける灯り。ほかにも、この映画の照明はとても暖かい。寒い冬のなかでのぬくもり。照明は、ピアノの響きと共演して、ノスタルジーを奏でていく。


豊川悦司を含めて、みんな、求めているものが全部は手に入らないの。全部を自分だけのものにすることは出来ないの。だからといって、奪ったりはしない。自分だけのものにはならないまま、ただただ愛していく。ただただ、わかりたいと思う。そうするしかないんだもの。過去もまるごと、その人が好きだった人もまるごと。亡くなった人が好きだったかもしれない人、亡くなった人が生前にみた風景や体験、そういうものを自分も見てみたいと思う。追体験したいと思う。失われた時を求めて。亡くなったあとも、お別れはできなくて。ずっと心のなかで求めてしまう。整理なんてつくわけない。どうしたいのかもわからない。前に進みたいのかも、このまま留まりたいのかもわからない。そんななかで、今、言いたいことは、叫びたいことは、これだけ。
「お元気ですか? 私は元気です」


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ヤバい、こんなの新年から観ちゃって。明けましてが吹き飛んじゃった。笑 だけど、こんな新年があってもいいよね?笑

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新年は、死んだ人をしのぶためにある。
心の優しいものが先に死ぬのはなぜか。
おのれだけが生き残っているのはなぜかと問うためだ。


これは、中桐雅夫の「きのうはあすに」という詩の一部です。何年か前に出会った詩です。以来、年末になると、この詩が頭のなかをかけめぐります。直接の知り合いじゃなくても、亡くなった方の死を悼んで、心のなかでご冥福を祈りたくなります。そして、無意識かもしれないけど、心のどこかにその気持ちを抱えて新年となります。この詩は、次のように結ばれます。


どんな小さなものでも、眼の前のものを愛したくなる。
でなければ、どうしてこの一年を生きていける?



*この映画の持つ雰囲気とは、全然違うレビューになっちゃったけど、でも、私のなかでは結びついてしまいました。蝶々結びみたいにね。
いの

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