ninjiro

男と女のninjiroのレビュー・感想・評価

男と女(1966年製作の映画)
3.8
銀細工の街、寒々とした海。褪せた雲間から差し込む光は眩しすぎて、白でも黒でもない曖昧な心、負った古傷を海風は乾かすでもなく疼かせる。ボードウォークの靴音は低く、遠く離れた爆音のような響き、笑顔を貼り付いた作り笑顔に変え、空から降るような潮の匂いは、いずれ錆び付き滅んでゆく金属の塊を思い出させる。この先何年、ここを訪れることが無くなっても、この先何十年、眼が霞んで外の形を像として認めなくなっても、忘れ得ない鮮やかな輝き、頬を撫でた長いブロンドの髪、カーニヴァルの夜のように高鳴る心、握り合った二つのぬくもり。

気付けば出来上がっていたボトルシップのように、取り出しようのない意地悪な形、不器用でも器用でもない私達は、見た目には只の男と女に見えるけど、瞳が見詰め合う度罪の数が重なるように、互い小さく目を伏せる。また同じ時間に生まれ変わりでもしない限り、誰しもが考えるようにきっとこのガラスのような心を一度粉々に壊さない限り、鮮やかな貴方の眼の色を見詰めることは出来ない。彼よりも高い鼻、大人びた目蓋、短い襟足、そればかりを見てしまう。暗い車窓に映るのは、忘れ得ない穏やかな瞳、二つに引き裂かれるような身体と共に、心を乗せてラジオを消して、車が夜をひた走る。届けて欲しい、繋いで欲しい、信じて欲しい、その情熱を。
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