とり

独裁者のとりのレビュー・感想・評価

独裁者(1940年製作の映画)
5.0
チャップリン長編の中でも大好きな「独裁者」をフィルムで観られました。
覚悟してたほどフィルムの状態は悪くない。むしろ良い方だったのでは。
ちなみにこの作品はチャップリン初のトーキー。初めてチャップリンが喋ったんですよね。
当時リアルタイムで見た人は、私が感激したよりもっと衝撃を受けたんじゃないでしょうか。
文字通り体を張った体当たり演技で表現してきた彼は、喋らせてもやはり饒舌でした。
あまりにも有名すぎる名シーンの数々ですが、特別好きなのは、チャップリン扮するヒンケルが地球儀と踊るシーン。
こてんぱんにヒトラーを茶化しまくった映画だけど、一方的に悪魔のように描いているのではなく、孤独や弱さなども非常に上手くとらえたシーンだと思う。
一方的な悪人として描くより効果的だと、チャップリンは知ってたんでしょうね。
他に何度観ても深いと思わせるのが、オーストリア侵攻に際してのイタリアトップとの調停エピソード。
イタリアとは名指ししてないけど、明らかにイタリア。そして明らかにムッソリーニ(笑)
このおじさんがまた強烈で、チャップリンとの演技合戦のような様相は見ごたえあり。
パーティーの席で、食べ物をからめた対決では、ソーセージ(ドイツ)やスパゲティ(イタリア)を上手く小道具として使ってて面白い。しかもアメリカンマスタードの使い方も痛烈。
と、ほぼヒンケル役の場面ばかり強烈な印象を残しがちだけど、もう一人のチャップリン、ユダヤ人の床屋さんもある意味象徴的。
偶然ヒンケルと瓜二つであるという設定で最終的に間違えられて・・・という展開に。
一人二役の多い他作品同様まず見た目がチャップリンそのまま。
ドタ靴、山高帽、ステッキといったあのスタイルで、ひょこひょこ歩く姿もまんまチャップリン。
ラストの有名な演説シーンも含め、間違いなくチャップリンの分身です。
この床屋、迫害されてもどこまでも自由で決して勇気を失わない。世界中の人々に自由であれ、と喜劇を通してメッセージを送っています。戦時中ですよこれ!
ラストの演説は唐突とも言えるほど、人が違ったかのような熱弁モードに切り替わるけど、ここだけは製作された年を意識して観るかどうかで受け取り方が大きく分かれると思う。
今の時代にこんな演説をしても「理想論」だとか「言うなら誰でもできる」だとかであっさり片付けられそうだけど、ヒトラーがまだ政権を握ってるまさにその時、これだけの糾弾はまず無理。
特に今回、フィルム、大画面、暗い館内という状況で観て、チャップリンの伝えたいことが以前より更に少し理解できたような気もしました。
北千住シネマブルースタジオ
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