とり

道のとりのレビュー・感想・評価

(1954年製作の映画)
3.5
死ぬまでに絶対観とけ系の名作として名高い作品なので過去に一度鑑賞したことがあって、今回二度目。
当時は正直言って退屈なだけでした。
あの頃よりは年齢や経験値もそれなりに重ねてるので、もしかしたらと思ったけど⋯やはり良さがわかりませんでした。

フェリーニの主だった作品はほぼ観てるけど、とにかく合わない。好みの問題だとは思うけど、多くの人がとても良いと感じてるものを理解できないのはかなり悔しい。
ニューシネマパラダイスもそうで、良さがわからない。人として致命的に何かが欠けてるのか?
本作はわかりやすい作品なので単純に物語としては楽しめるんだけど、メッセージとかテーマとかは全く響かないんですよね。
孤独?むしろ好んでそう在りたいくらい。

主演の2人の演技とニーノ・ロータの音楽、これは文句なく素晴らしいです。
哀愁を帯びたもの悲しい旋律はいつまでも心に残ります。往年の映画音楽の偉大な作曲家の一人。
アンソニー・クインは好きな俳優なのでひどい男の役柄でも甘めに見てしまう。というか感情移入しやすいキャラクターだとさえ思う。実際、そんな面倒な女さっさと捨てていっちまえよなんて思ってしまいました。
彼の出演作ではアラビアのロレンスで粗野だけど根はいいジャイアンタイプの首長役が最高によかったな。

第三の人物とも言える綱渡り兄さんの存在がどうにも難解でした。天使の羽を生やしてるし、やたらイラつかせるし、核心的なセリフを吐く。
無理やり現代の感覚にあてはめると、多動傾向のある発達障害か。ジェルソミーナと違って知能には問題ないけど人との距離感がおかしい。かなり生きづらいと思うんだけど、そんな雰囲気が微塵もなくて本当に不可解です。いつ死ぬかわからないと言ってるし、一般人とは違う次元で生きてるのかも。

貧困、女性、社会的弱者など当時の時代性が強く反映されているので、ピンとこないというか理屈ではわかっていても本当の意味では理解しきれないんですよね。
生きること自体に何らかの意味を見出そうとする姿勢や孤独感などは現代でも通じるものがあるので、そこが刺さる人には得がたい映画なのだと思います⋯かな?
人生の終わりに何を思うか、満足して死んでいけるのか、今を精一杯生きろよというフェリーニからの応援歌なのかもしれませんね。
自分的には人生は壮大な暇つぶしという言葉のほうがしっくりくるけど。ジェルソミーナにこれを言ったら恵まれてるからだと返ってきそうかも。

ところで暗いシーンがひどく見づらかったので、その辺少し調整して欲しいな。古いフィルムの味でもあるんだけど、本作のように動きが少なく表情が大事な映画ではわりと致命的かなと感じます。
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