回想シーンでご飯3杯いける

独裁者の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

独裁者(1940年製作の映画)
4.5
1800本目のレビューに選んだのは、チャールズ・チャップリンによる1940年の作品。アドルフ・ヒトラーの独裁政治を批判しているが、何よりも、これを正にナチスの勢力拡大期に公開したというのだから驚く。

チャップリン初のトーキー映画であるが、パントマイムや意図的な早回し等、サイレント譲りの笑いが大半をしてめており、彼のこだわりが強く感じられる。

有名なラストの演説シーンに加え、それ以前にチャップリンが1人2役をこなした「なりすまし」コメディである点や、トメニアという架空の国を舞台にして、実在の国名に関係なく、人種や貧富の差を超えた人権を謳う彼の基本姿勢を貫いた、普遍的な作品に仕上げている点に注目したい。

トメニアの国民や突撃隊は英語を話すが、その独裁者ヒンケルの演説や下士官への命令はドイツ語をイメージさせる奇声を発し、部下達は杓子定規に「ハイル、ヒンケル!」と応えるのが面白い。まるでヒットラーと支持者が狂言で繋がっていたかのような描写である。

この聞き取り不能な演説の描写があるからこそ、ヒンケルになりすましたチャップリンの演説の、ひと言、ひと言に説得力が生まれるのだろう。現実社会をリアルに描くのではなく、寓話的な比喩を用いて社会に影響を与えうる普遍的なメッセージを生み出す。僕が映画に求める面白さが、全て詰まった傑作である。

※プロフィールを一部書き直しました。