RenAlLotus

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊のRenAlLotusのレビュー・感想・評価

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊(1995年製作の映画)
3.9
(※注:悪いとは言ってません、大好きな映画です。後半褒めます)

まず原作との比較からいくと、この映画には原作の面影はほとんど残ってない。

原作漫画1巻とストーリーが全然違う(「まとめた」とも言えるが)のもそうだし、キャラデザ(絵柄)も相当リファインされてる。

原作漫画を読んで衝撃を受けるのは、世界観や絵面がかなり現実に即した近未来であること。
技術や社会構造、あるいは建築物のデザインなんかも、89年初出でありながら2018年の現代に見ても「未来はこうなるかも」と思える。未来予測の精度がハンパじゃない。

それに対して、監督がやりたがったのかデザインを考えるコストが低かったのか知らないけど、この映画では王道サイバーパンクの絵面に落ち着いている。
初っ端、オープニングからめちゃめちゃレトロな電脳の表現が使われてるのもそれを物語ってて、80年代の想像力の範囲での未来ってかんじ?

元々原作漫画において、「義体」とか「ゴーストハック」は唯一のファンタジーという感じだった。「ゴースト」という概念を表現するために必要な設定かつ、ユニークなストーリーにするための舞台装置で、ある種仕方なく矛盾を承知で入れている要素。

その「ファンタジー」部分を残して他の全部をサイバーパンクというファンタジーに置き換えてるから、単に絵面の話じゃなく、受け手に求めるスタンスまで大きく違う(極端なことを言えば「近未来ものか、ファンタジーか」という違い)。

それに付随してだけど、原作漫画はなんとなく砂漠/戦場を思わせる乾いた、カラッと荒涼とした雰囲気なのに対して、この映画はサイバーパンク特有の雨/都市、ジメッとした汚水の雰囲気を感じさせる。

おまけに、情報量が全然違う。原作漫画で語られる色々な概念や哲学、原作者の思想に関した詳細な説明…そういった一切が削られている。
その部分に関しては、原作にあった異常なまでの深みがなくなってると言えて、あくまで原作と比較すると"浅い"ストーリーになってしまっている。


…と、ここまで色々言ったけど、おれはどっちが良いとも悪いとも思ってない。

おれが先に原作漫画を読んだから、あるいは映画をレビューするという形式をとる以上「映画版は」を主語にして「原作漫画とここが違う!」という言い方をしたけど、むしろおれは映画の方が楽しめたように感じている。

なんていうか、漫画版はところどころ「おれ今哲学書読んでるの?」ってくらい、言ってみれば"哲学的"な部分がある。映画終盤の元になってるシーンとかがそれなんだけど。

その辺りは文章ばっかりで本当に読むのに時間かかるし、頭使うし、しかもおれはある程度SF小説とか哲学とかに慣れてるつもりだったのに完全には理解できないという…

しっかり読もうとするとすごく興味深い部分ではあるし、そこが魅力でもあるんだけど、
いわゆる漫画の文法には全然収まってないし、まして映像化するようなものでは断じてない。ずっと喋ってるだけになっちゃう。

そうすると、そういう難しすぎる部分を排して映画にしてくれるというのはすごくありがたい。
哲学書みたいな部分がなくたって充分面白い設定とストーリーなんだから、そこだけまとめてくれたっていいわけだ。

そして、原作漫画にはあまりなかった「視覚的に独特な雰囲気」はサイバーパンクが担ってくれている。

草薙素子のキャラクターも、原作より親しみやすくなっていると思う。

そして、ここがもっとも重要なんだけど、先述の「哲学書みたいな部分」はエッセンスだけとはいえこの映画にも残っている。かなりわかりやすく要約されて、その上観客に想像力を要求するかたちではあるけど、原作でもっとも伝えたいことみたいなのの一端は感じることができる。


そこはそれでもう充分なのに、さらに原作にない魅力として、「映像の演出が最高すぎる」ってとこがある。もう、ほんとに、後の色んなものに影響を与えるのも頷ける。

サイバーパンクと言えば真っ先に出てくるのは「ブレードランナー」で、今作も街並みとか影響されてる部分は多いんだけど、まったくオリジナルの斬新な表現も今作にはたくさんある。

たとえば、いちばん印象的なBGMの「謡」という曲。女声の合唱だと思うんだけど、歌詞が古語というのがすごく独特な雰囲気を出しててすばらしい。

これはハリウッド版のGHOST IN THE SHELLにも使われてて、多分海外の人からしたら日本語の発音であれば歌詞がなんであってもエキゾチックな魅力を感じると思うんだけど、
古語で歌ってくれると、日本人の我々からしても「日本語のようなんだけど何を言っているのかはよくわからない」という状態になって、かなり幻想的な雰囲気を演出してくれる。

他にもたとえば、「機械の体(皮膚の一枚下は鉄やプラスチック)」であることのダイナミックな表現。詳しくは言わないけど実写映画で再現するには難しいレベルのコトをやっていて、これに関しては「ブレードランナー」なり「ターミネーター」なりがやりたくてもできなかったことなのは間違いない。

そして、これはもう文句なしに斬新だったんじゃないかと思うのは、「光学迷彩」を使った色々な演出。

たぶんハリウッド版を作った連中が最も真似したかったことなんだけど、有名なビルから飛び降りるアレやら、なんだろう…浅い川?水路?みたいなとこでの戦闘とか…
もうそのあたりは一見の価値あり、どころか、何度でも観たくなる映像。

メタルギアソリッドシリーズの「ステルス迷彩」もこれの影響をモロに受けてると思う。

それだけじゃなく単純に絵が綺麗とか細かいとか、声優が豪華とか、アニメとしての基礎的なクオリティも高いし…


最初に言った通り、原作漫画とは全く別物だから、「原作完全再現!」みたいなのを良しとする価値観だともう最悪って感じだと思うんだけど、

仮に原作を念頭に置いたとしても
・元がそもそも映像化しづらすぎる
・原作者も「原作気にすんな」と言ってる
・補って余りある独自の魅力がある
という理由でこの映画は十二分に素晴らしいものに仕上がっている。

まして、原作のことを忘れてひとつのアニメ映画として見た場合はもう…
文句なしの傑作!

いいから全員観ろ!
RenAlLotus

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