荒野の狼

男はつらいよ 純情篇の荒野の狼のレビュー・感想・評価

男はつらいよ 純情篇(1971年製作の映画)
4.0
『男はつらいよ 純情篇』は、1971年に公開された89分の映画で、『男はつらいよ』シリーズの6作目。主演の渥美清は1928年生まれであるから、当時43歳だが、映画の中では年齢は40に近くなっているというセリフがある。共演の若尾文子は、渥美の5歳下で38歳。冒頭は長崎の五島列島(福江島)で寅さんが、宮本信子に会い、同じ年頃の妹のさくら(倍賞千恵子)を思い出すとかたっているが、宮本は1945年生まれなので当時26歳で、倍賞は1941年生まれなので30歳であるから設定にはあう。本作は冒頭の五島列島のシーンが物語として優れており、宮本の父親役で森繁久彌が数分だけ登場するという贅沢さ。寅さんが、珍しく故郷への想いを語ったり、宮本相手に男らしさを見せたりと、このシーンは寅さんの魅力が凝縮されている。
本作の予告は本編に含まれないシーンが多いが、福江城(石田城)で寅さんが宮本に堀にかかる石橋の上で傘を差しだすシーンも、その一つで、石垣などが背景になっており美しい。実際に、福江城に行ってみると、映画予告では大きく勇壮に見えた石橋は、意外なほどに短く風情に欠けるが、寅さんの予告編のためだけに当地で撮影がなされたと思うと感慨深い。なお宮本は福江島の玉之浦に住んでいる設定で、玉之浦教会は入口の柵に寅さんが寄りかかるシーンがある。ちなみに、森繁と会話する寅さんが、ここから本土行の船に乗ることを思わせるシーンがあるが、一般の観光客は福江島には、西の福江港からアクセスすることになる。レンタカーで玉之浦を訪れてみたが、映画では建物が映されることのなかった教会はこじんまりとしており、寅さんが寄りかかった柵は開いており、建物の入口(鍵がかかっており内部は見学できないまでは行くことができる。なお、玉之浦教会からは、映画「悪人」のロケ地である大瀬崎灯台まで車で10分で行くことができるので映画のファンは立ち寄りたい。
本作の大半は旅から戻った寅さんが、若尾に片思いをする話が中心で、若尾は美しいが人物背景などの説明が不十分で、寅さんとの関りも表面的。寅さんは、若尾に対しては、惚れているだけで、何一つプラスになることをしておらず、これではフラれてしまっても仕方がない(好意をもたれる要素がない)。東京のシーンでは寅さんは、いい加減で無責任な部分だけが目立っている。冒頭の五島列島での男らしく思いやり深い寅さんとは対照的。映画の構成として、このふたつの対照的な人物像にかける時間配分を逆にすれば、寅さんの魅力が全面にでた映画になったのではと思われる。
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