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父 パードレ・パドローネのKSatのネタバレレビュー・内容・結末

父 パードレ・パドローネ(1977年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

イタリア、サルデーニャ島で、羊飼いの息子が厳しい父親によって無理矢理小学校を辞めさせられて羊飼いにされた後、軍隊に入れられるという噺。タヴィアーニ兄弟の代表作。

冒頭、学校にいきなりお父さんが来て授業を止めた挙句、無理矢理辞めさせられるくだりは、マジで嫌すぎる。

しかし、まだ6歳の子を学校に通わせず、延々と木の枝で打ち、山小屋にたった一人置き去りにし、決して家に帰さない父の教育方針を、力強いスパルタ教育とみなすか児童虐待とみなすかは意見が分かれるところだろう。

なぜならこの映画では、最近の日本映画の虐待や体罰の場面よろしくただただ深刻に描くことはせず、決してユーモアを忘れないからだ。父親の体罰する様では滑稽な追いかけっこが繰り広げられ、息子の脱走場面もなかなか笑える。父と子によって演じられる「ピエタ」のような構図もシュールだし、何だかわかるようなわからないような変な場面が続く。

思春期の少年たちの自慰行為を見せるのはイタリア映画のお決まりだが、この映画では子供たちが羊やニワトリを「用いる」ため、注意が必要だ。この場面だけはちょっと「楢山節考」的な暗さがある。

20歳になり字も書けない上に口を聞けなくなった主人公が軍隊に入って初めて読み書きを学んだ挙句、結局これは実話が元で、主人公(原作者)は言語学者になりました、という展開も凄まじい。冒頭と終盤で原作者本人が出てきて父親役の俳優に杖を渡すメタ表現も面白い。

ちょっとよくわからない感じの妙ちくりんなエピソードを羅列したり、引きの画から急に寄りになったりするカット割とか、「サン・ロレンツォの夜」とほとんど変わらない。なるほど、タヴィアーニ兄弟はちょっとよくわからん中毒性があるのは理解できた。

やたらと登場人物たちの心の声が聴こえてきてうるさくなる表現はモレッティの「ローマ法王の休日」にもあったなあ、と思ったらこの映画、あの口髭生やしてた若いやつがモレッティその人だったのね。全然気付かなかった...。

最終的に父親は怖いままだし、和解らしい和解もないから、すっきりはしない映画だ。これがパルムドールを受賞してしまう時代、そして父親という存在ついて考えさせられる。
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