サマセット7

ハスラーのサマセット7のレビュー・感想・評価

ハスラー(1961年製作の映画)
4.8
監督は「オールザキングスメン」のロバート・ロッセン。
主演は「明日に向かって撃て!」「スティング」のポール・ニューマン。

[あらすじ]
エディ・フェルソン(ポール・ニューマン)は、弱いフリをしてビリヤードの賭けを持ちかけ、賭け金が上がったところで腕前を見せる、勝負師「ハスラー」を生業としていた。
彼は、目標としていた伝説的ビリヤードプレイヤー、ミネソタ・ファッツ(ジャッキー・グリーソン)に大金を賭けて挑む。
序盤、エディの才能が光り、大きく勝ち越すが、居合わせたギャンブラー、バート・ゴードン(ジョージ・C・スコット)はエディに対して"奴は負け犬だ"と吐き捨てる。
その言葉どおり、長時間にわたる死闘の末、エディはファッツに大敗する。
全財産を失い落胆するエディは、退廃的な美女サラ(パイパー・ローリー)と出会い、2人は惹かれ合うが、エディの勝負への執着は消えておらず…。

[情報]
「傷だらけの栄光」「熱いトタン屋根の猫」などで注目を集めていたポール・ニューマンが、今作で英国アカデミー賞主演男優賞を受賞し、本格的にブレイクしたことで知られる、1961年のアメリカ映画。モノクロ作品。
原作はウォルター・テヴィスによる同名小説。

室内スポーツであるビリヤードを題材とした映画の中では史上最も高名な作品である。
今作により、本来やり手、詐欺師、勝負師などの意味で使われていたハスラーという言葉が、ビリヤードプレイヤーを指す言葉として認知されるようになった。

監督のロバート・ロッセンは、1949年公開のオールザキングスメンのアカデミー賞授賞式直前に過去共産党員であったことを糾弾された。
その後、「赤狩り」の影響でロッセンは映画作りを禁じられ、最終的には映画関係者を多数告発せざるを得なくなり、二度とハリウッドに戻ることはなかった。
今作は、ロッセン監督がニューヨークで撮影し、赤狩後ほぼ唯一高評価を得た作品である。
ロッセン監督は、今作公開の5年後、57歳でこの世を去った。

エディとミネソタ・ファッツを演じたポール・ニューマンとジャッキー・グリーソンは、プロのビリヤードプレイヤーに師事してビリヤードのスキルを習得し、撮影に挑んだ。
一部の高難度の技を除き、ほとんどのビリヤードの場面を、俳優が実際にプレイしている。
なお、ジャッキー・グリーソンは元々ビリヤードの熟練者だったが、ポール・ニューマンの方は全くの素人だったとのこと。

今作は、公開当時から高く評価され、61年度のアカデミー賞にて8部門でノミネート、撮影賞と美術賞を獲得した。
現在でも、批評家、一般層問わず、高く評価され、広く支持を集めている。

[見どころ]
モノクロ映像が描き出す、硬派と退廃の調和した、独特の雰囲気!!撮影賞、美術賞に納得。
有名なビリヤードシーンをはじめ、各シーンの引き込み力!!演出の生み出す緊迫感!!目が離せない!!
俳優陣の名演!!
ポール・ニューマンの柔和さと、裂け目が生じた凶気!!
ミネソタ・ファッツの醸す威風と哀愁!!!
サラ演じるパイパー・ローリーの退廃と薄幸の美しさ!!
そして、ジョージ・C・スコットの演じる、悪魔の如き魅力滴る酷薄な賭博師!!!
最高!!!!
そして、何より、テーマの深み。
今作ほど人生に「効く」映画は記憶にない。

[感想]
これは傑作。

ビリヤードを題材とした映画だが、ビリヤードに一切興味がない人間(=私)でも、全く問題なかった。

冒頭、若き日のポール・ニューマンが柔らかくニコニコしているのがとても楽しげだ。
タイトルに至る切れ味もたまらない。

その後、潔くサッとミネソタ・ファッツとの最初の対決に至る。
ファッツの、巨体に似合わぬ優美さ!!!
ビリヤード対決自体、大変引き込まれるが、重要なのは、ゴードンの「負け犬」というセリフ。
以後、今作では「負け犬」「勝利者」といった言葉が繰り返し出てきて、テーマを構成する。

今作では、エディを中心に、宿敵ミネソタ・ファッツ、寄る辺なき魂の理解者サラ、勝負の世界へ誘惑する悪魔の如きゴードン、という3者との関係が物語の肝となる。
冒頭の一戦以降、ミネソタ・ファッツは最終目的として後景化し、サラとゴードンの2人が、エディを引っ張り合う関係が中盤以降の中心となる。
両者の存在は実に象徴的だ。
一般的幸福と、修羅の愉悦。
平穏と刺激。愛と栄光。

週二回大学に通い知的だが、酒に溺れ、足が不自由なサラ。
孤独と現実に対する絶望が彼女を蝕んでいる。
そんなサラが、エディに向ける愛情のいじらしさ!!

他方のゴードンこそ、今作で最も印象的なキャラクターだろう。
このキャラクターの魅力が、今作を傑作にしていると言っても良いかもしれない。
憎らしいほど正確な、事実の洞察!!
そして金と栄光のために手段を選ばぬ酷薄さ!!

今作は名言が多い。
特に有名なのは、エディとゴードンの対話だろう。
才能溢れるエディに欠けており、ファッツが有していたもの。勝敗を分けた分岐点。
それをゴードンは「お前には人間の厚みが足りない」と喝破する。
人間の厚み。人間力。英語ではcharacter。
なるほど、芯を食っている。

しかし、今作の語る勝敗論は、ゲームの勝ち負けの域にとどまらない。
そのことを示すのが、ヒロイン・サラだ。
彼女に、初めてエディが語るビリヤードの魅力!!
そんな彼にサラが伝える勝利者の意味!!!
深い!!!

ファッツとの再戦からのラスト。
その余韻。

今作は、娯楽を全面に出した作品ではなく、テーマのはっきりした、映画らしい映画である。
各シーンに意味があるが、娯楽作を期待して観た人には、いくつかのシーンが退屈に思えてしまうこともあるかもしれない。

個人的には、傑作!!であった。

[テーマ考]
今作は、人生における勝者と敗者の意味を問う作品である。
ゴードンとサラのそれぞれの勝敗論は、まさしくテーマそのものだ。
テーマは、今作の結末とも密接に結びついている。
今作が傑作たる所以の一つだ。

今作から得るべき教訓は数多い。
失敗を活かすことの大切さ。
最後は、人としての大きさがモノを言うこと。
スタイルの重要性。
調子に乗らないこと。謙虚であること。
自ら行動しない言い訳をしないこと。
自分が心から楽しめることを、楽しむことこそが、幸福であること。
リソースを集中させること。
チャンスを掴むこと。
大切なものを見失わないこと。
破滅的な行動を自覚すること。

[まとめ]
ポール・ニューマンの代表作の一つにして、人生の勝者と敗者の意味を問う、ビリヤード映画の傑作にして名作。

2022年12月13日現在、サッカーのワールドカップでは、ベスト4が出揃ったところだ。
今作のゴードンが言うように、積み重ねた人間力が勝敗を決するとすると、メッシやモドリッチといったベテランの活躍が勝敗を分けるかもしれない。