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砂の女のArbuthのレビュー・感想・評価

砂の女(1964年製作の映画)
4.9
これ元々原作を読んでたからどれだけ狂ったお話か知ってたけど、それでもなお映像の力と言うべきか、凄まじい衝撃を受けた。
ほぼほぼ忠実に原作を再現してる。鬼才・安部公房の問題作、よくここまで忠実に再現できたなぁ。

なんと言っても岸田今日子の怪演!素晴らしい!本当に絶妙なキャスティングなんです。程よく美人で、程よく不気味。良い顔です。演技も見事。とても官能的。

そして映像も見事。砂の無機質で無慈悲な重さ。乾燥感。あと、肌の撮り方がなんともエロチック。汗ばんで髪の毛や砂が肌に張り付く様子をねっとりと追うカメラワークが白黒なのにめちゃくちゃ艶っぽい。撮り方エロいなー。音楽も不気味で良い…。

ストーリーはとにかく怖いんだけどむちゃくちゃ面白い。
舞台はほとんど蟻地獄のような凹地の中のあばら家だけだし、登場人物も主演の2人以外ほぼ存在感無いのに全く退屈しない。
やはり面白い映画を作るのに派手な舞台装置は必ずしも必要不可欠ではないんだなーと再認識した。

肉体的にも精神的にも十分に自由を奪われた時、囚人は自ら囚われることを望む。なんかこういう社会心理学の研究ありそう。

あと物理的な『上下』ってやっぱり力関係・支配関係の上下に強く結びついてるんだな。「パラサイト」よりももっとダイレクトに表現されてる。

これは世界に通用するな〜と思ったらカンヌでグランプリ受賞してるんですね。流石。


余談。先日フィルマガのコラムで『スペキュレイティブ・フィクション(Speculative Fiction = 深く思弁させるフィクション)』なるジャンルの存在を知ったんだけど、これは正にそれに当てはまる作品だった。
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