うえびん

うなぎのうえびんのレビュー・感想・評価

うなぎ(1997年製作の映画)
3.8
水に流す

1997年 今村昌平監督作品

不倫した妻を殺し、人間不信になってしまった山下(役所広司)。服役後、小さな床屋を営む彼は、ペットとして飼っているウナギにだけ心を開く。そこへ舞い込んだ桂子(清水美沙)。二人の心の交流を軸に描かれた物語。

舞台は千葉県佐原市(現:香取市)。近場なので、与田浦、観福寺、佐原警察署など、よく見知った景色は、20年以上前でも今とほとんど変わらない。

身近な場所も遠目に眺めると、普段と違った情緒が感じられて興味深い。

役所広司vs柄本明(刑務所仲間の高崎)。若い頃から、この二人の役者魂はすさまじい。この場面に前後の展開が吸い込まれてしまう吸引力をもっている。周りの役者の存在感が霞んでしまう。柄本明のウナギのヌメリのようなネチネチした狂気、それに対抗する役所広司の静けさの中に秘めたる狂気、狂気vs狂気に圧倒される。

この作品は、第50回カンヌ国際映画祭で『桜桃の味』(アッバス・キアロスタミ監督)と共にパルム・ドールを受賞している。奥山和由(製作総指揮)のプロジェクト「シネマ・ジャパネスク」における唯一の成功作品だそう。

何となく、外から見た日本、外国人から見える日本的なものを描いているような感じがした。山下が犯した罪、桂子が犯した過ち、二人とも過去を水に流して新たな人生を歩んでゆく。

西洋的な“贖罪”ではなく“水に流す”文化が、海外の人には新鮮に映ったのかもしれない。

普段は意識されない国民性も、外側から眺めると味わい深い。

▶ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。(方丈記)◀
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