荒野の狼

パリは燃えているかの荒野の狼のレビュー・感想・評価

パリは燃えているか(1966年製作の映画)
4.0
『パリは燃えているか』は、1966年のアメリカ合衆国・フランス合作の映画で、題名のドイツ語「Brennt Paris?」は、本作の最終版でヒトラーが電話で問い合わせる形で登場する。173分の大作で映画の開始に「序曲Overture」、途中に「休憩、幕間Intermission」が入っているのは、重厚なオペラやクラシックを鑑賞するかのような気分にさせるものがある。白黒作品にしたことで、映画の中に実際の歴史映像が違和感なく盛り込まれておりドキュメンタリーのような雰囲気を作ることに成功している。本作は全編、ほぼ英語のセリフであるが、映画は出演俳優が自国語の部分は、フランス語とドイツ語で吹き込んだバージョンがあるということなので、フランス人はフランス語で、ドイツ人はドイツ語で話されているバージョンをつないだ本来の歴史に近いバージョンを作って欲しいところ(そうでないとアメリカの宣伝映画のような印象を受ける)。
映画は、1944年8月7日から、8月19日のレジスタンスの蜂起開始、8月25日のフランスの首都パリの解放に至るまでで、ドイツ軍の降伏に貢献したレジスタンス運動を中心にしている。レジスタンスは共産主義者とドゴール派からなっているのに、双方の組織の説明がなく、「共産主義」という言葉は映画でほとんど出て来ない。前半の主役はドゴール派の中心人物ジャック・シャバン=デルマスを演じるアラン・ドロンが活躍する。これにより、視聴者はレジスタンスは基本的にドゴール派という印象を持つことになる。これは映画製作時に、ドゴール本人が、フランス共産党による解放で果たした活躍の描写を最小限に抑える政治的検閲をかけた(脚本のフランシス・フォード・コッポラ談)ためであり、ドゴールの意図は成功している。
中盤の主役はスウェーデン領事ラウル・ノルドリンク( Raoul Nordling)を演じたオーソンウェルズ。ウェルズは、ナチのパリ軍事総督であるディートリヒ・フォン・コルティッツ(Dietrich von Choltitz)将軍の相談役となる。コルティッツはゲルト・フレーベ(Gert Fröbe)が演じており、終盤の主役(実質、全編の主役と言ってよい)で、パリを破壊から救うことになるが、フレーベ本人が戦時中、ナチ党員でありながらユダヤ人をかくまった人物であり、適役。一方、映画の主役のようにクレジットされているジャン=ポール・ベルモンドは、レジスタンスのイヴォン・モランダ(Yvon Morandat) を演じるが、登場シーンは短く、戦闘下のパリを自転車で奔走する場面などに登場。ちなみに、本作ではパリ市民が、車ではなく自転車を使用している様子が登場するが、これは歴史的にナチがパリで行った政策を映画で再現しているため。
本作はオールスターキャストを意識したせいか、これが不要なシーンとなって、いたずらに映画の尺を伸ばしてしまった。例を挙げれば、シモーヌ・シニョレが電話の受話器を受け渡すだけのカフェの店員役をしているのは違和感が強い。ジョージ・チャキリスが戦車でパリに競争をしながら入るシーンも浮いている。一方で、登場シーンは短いが、アンソニー・パーキンスが、パリに入ってから悲劇的な出来事に巻き込まれる米兵を演じているのが、陰のあるパーキンスには適役で強い印象を残す。本作では、アメリカ軍は絶対的な正義のヒーローとして本作では登場している中で、カーク・ダグラスは、愛想が悪いジョージ・パットン将軍を軍人らしく演じ、登場シーンが短いのが惜しく感じられる。
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