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むかしの歌のzhenli13のレビュー・感想・評価

むかしの歌(1939年製作の映画)
4.4
再見。花井蘭子の気概にさまざまな感情が入り混じる。そのラストにまた泣いた。
江戸が終わりいよいよ明治に染まっていくようすが繰り返し描かれる。高堂国典が刀で物干し竿をばっさり切り落とし、人力車が走り抜けるショットにつながる勢い。人力車に乗る男は山高帽。ここでも時代の対比を一瞬で描いてる。
2022.7.22 「石田民三特集」国立映画アーカイヴ

叙情に包まれた野心作。1939年なので『花つみ日記』と同年の作品。あちらは少女小説の薫り。こちらは江戸の終わりと明治の始まりの人情物語の体をとりつつ少女たちの絆を描き、『花つみ日記』と表裏一体と言える。
サイレント映画以後の文法を色々探っているようにみえた。回想カットを何も挟まず突然シームレスにつなぐところなど特に。

音にものすごく気を遣っている。
冒頭はつまびく三味線に長唄がずっと聴こえているが、声の主の登場までのあいだ、カメラは廻船問屋を営む家の中を行き渡る。全編通して「浜辺の歌」が燻り、長い無言の間を微妙な表情の変化と足元カットに委ねる。ここぞという場面を泣きのメロディで誤魔化さない。
また物干しの竹を斬り落とした音を次の人力車のカットに引っ掛けるなど、緩急と緊張感が随所に効いている。
極めつけは高堂国典がおっとり刀で家を飛び出すシーンにデュカス「魔法使いの弟子」がかかる衝撃。『ファンタジア』に1年先がけている!
石田民三作品、もっと観たい…

花井蘭子演ずるお澪と生き別れの妹との縁だけでなく、結局一緒にはならなかった元許婚の番頭やいまだ丁髷の髪結など、なんの損得もなく奇妙に爽やかに心だけがつながっているようすが、しみじみと好かった。
2020.4.14
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