ピッツア橋本

赤い殺意のピッツア橋本のレビュー・感想・評価

赤い殺意(1964年製作の映画)
5.0
“赤い殺意、黒い影、灰色の結末”
線路沿いの民家に住む夫婦。嫁の貞子はある日、強盗に会いそのまま強姦される。「何も起こらなかったんだ」そう自身に言い聞かせながら、亭主関白な夫の小言や姑のいびりにも耐える最中、まさかの強姦魔が再来!こんどは俺の女になれと貞子に迫って来る。そしてまた犯される。一方で図書館勤務の夫も実は職場に10年来の愛人の義子がいて、ひょんな事から貞子に気づく事となり、貞子への尾行が始まる。

かくして、モノクロフィルムの中に苛烈に押し込められた赤い愛憎が粘っこく唸りを上げていくメロドラマサスペンス。
今村昌平監督の最高傑作のひとつとも言われている。自分も15年ぶりに鑑賞してその評価に偽りなし!と思えた。

映画技術的にみても、今村昌平の長回しが絶妙に人間の動物的な所作や感情の機微を捉えており、裸の線路と民家の高低差や境界線の曖昧さも含めてロケーションがうっとりする程に陰鬱な印象を与える。
後半に進むにつれてさらに北国、東北の孤独と死の予感であふれるロケーションが緩やかに展開され、時に目を覆う。そこを繋ぐ汽車の緊張感ともの悲しさも実に効果的。

そして何よりキャラクターが強烈過ぎる。貞子(春川ますみ)はムチムチの体躯で無学ゆえにドン臭くて幸薄。夫だろうが強姦だろうか抱かれてる時には絶えず悲壮感と女の弱さをブワッと放出する。故に彼女が語るモノローグ一つ一つが素朴過ぎて背筋が凍る。

夫(西村晃from水戸黄門)は図書館勤務でケチで喘息持ちの亭主関白。特技は攻撃的なキス(笑)時代性とはいえ、妻を籍を入れずに妾扱いし、10年間、美人図書館のお姉さん義子を堕胎させてまで関係をキープし続ける、正真正銘のゲス野郎!ある種、漢の憧れがぎゅうぎゅうに詰まったキャラ。

そして義子は個人的に本作MVP。表向きはメガネの似合うクールビューティー。でもその内実は腹の底から飢え切ったラブモンスター。その二面性がこじれに拗れて最終的には名探偵義子と衝撃的なラストに花を添えてくれる。俺はヨシコの事を忘れない!

強姦魔は元祖ストーカー。心臓病で余命いくばくもない、を大義名分とし、貞子を徹底的に付け回しガッツで抱く。それがとりようによっては純愛に見えてしまうけど、事実だけ拾い集めたら紛れもないクズ中のクズ。

こんな強烈な4キャラが織りなす超重厚メロドラマが面白くない訳がないです。人間の皮を被った獣たち。本当に狂ってて何度も驚かされた。

夫婦映画、家族映画として自分は本作のオチは本当に秀逸だと思った。平穏が訪れたように見えるラストカットだが、結局何も乗り越えてなんてしていない。ただ運良く過ちと秘密が流されて消えてしまっただけなのだ。

最高でした。
15年前に観た時はやっと探し当てたVHSレンタルを汚い画素で目を凝らしてみる感じだったけど、今回のnetflix配信でやっとフィルムとして鑑賞する事が出来た。しかもクソリアリズム故に解釈不可能な方言オンパレードも日本語字幕付けてカバーできる!歳は取るものだな苦笑

こんなに熟成された映画体験を出来て本当に嬉しかった。また記憶が薄れてきたときに見直したい映画です。
ピッツア橋本

ピッツア橋本