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ピアニストのKtoのレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
3.5
【感想】
ミヒャエルハネケの中でも最も不快な映画の一つだったし、その不快感に見合う価値を見出せなかった。
イザベルユペールはよくこの役にokしたなと思うけど、それまでのハネケ作でも常連だしとてつもなくハマっていたからいいのか。心なしか2000年代に入ってから、神経症的で狂気的な中年女性の配役が増えていく印象。
演じている時点でイザベルユペールは40台後半、ワルター役は20代後半なので20歳差の恋愛。

●中年の性的危機は重すぎる
エリカは厳格な母に育てられた副作用で、若い間に恋愛を謳歌できず、性愛への鬱屈したコンプレックスを抱えている。
そのためか、観るポルノビデオは緊縛物だったりと、アブノーマルなシチュエーションを気に入っている。精液付きのティッシュの匂いを嗅ぎながらビデオ観るシーンは気持ち悪すぎた。ドライブインシアターで他人のセックスに興奮してしまうのも、まともではない。

「二人がナットとボルトにしか見えない」とだいぶ面白い下ネタをクールに放つイケメンのワルターに徐々に乗せられるんだけど、応じ方も尋常じゃない。手コキしているのに、動くな・声を出すなというのは病的だ…。

●尋常ではない歪みと、少女のような夢想
クラシック音楽の教員としての非常に厳格な一面と、少女のように世間知らずで純粋な一面がある。
前者を維持するのに固執するあまり、性愛の対象としてアンタッチャブルな存在となってしまっている。
孤独な時間が増えた結果、肥大化した妄想と現実の境が曖昧になり、現実の相手にも当然のように自己中心的な要求をしてしまう。一方でイケメンで恋愛経験が豊富なワルターは、ごく普通の愛情に基づいた王道の行為を求める。二人はすれ違う。

エリカの部屋で二人きりになってからのシーンは、本当に面白かった。
これはシュール過ぎて笑ってしまった。

行為を焦るワルターに「手紙は読んだ?」と執拗に聞いて、ついに広げさせた手紙には自分がやりたいSMプレイの内容が事細かにびっしりと(文字通り便覧にみっちりと)と書かれている。ハネケなりの痛烈なブラックジョークなのだろう。

猿ぐつわをして・・・とか朗読しているのを聞いてるエリカが、ここのシーンで急に幼い少女のような表情になる。
初めて彼氏と自宅に来て、ドキドキしながら次の展開を待つ中学2年生のような綺麗な目でワルターを見つめる。
ソファの下から道具を一つ一つ取り出してみせる姿にも、(なぜか)強烈な可愛げがある。
「長年の夢だったの」と切実に語るのが、とても可愛くて、ここまで純真ならば付き合ってあげなよワルターという気持ちにもなる。でも、これでもかとズッタズタに拒否するワルター(それはそうか)

●ここまでの不快感を出す理由はなんなのか
アイスホッケーの練習に顔を出して、倉庫で行為に及ぶシーンは特に具合が悪くなる。
ファニーゲーム以上の意地悪さだと思った。
口淫で嘔吐して、その後に口臭がきついと拒否されるのなんて悪夢じゃないか…。

僕は「白いリボン」のような不安定な政治・社会情勢が複数の次元で個人へ影響する様相の描き方だったり、「ファニーゲーム」のような従来のパニック映画にある御都合主義を根底から覆したゲームチェンジャー性だったりが好きでハネケを熱心に支持しているが、残念ながらそこまでの価値を「ピアニスト」には見出せなかった。
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