元空手部

シンドラーのリストの元空手部のレビュー・感想・評価

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
5.0
ユダヤ系のスピルバーグが監督した作品とあって身構えて見てみたが、所謂演出的な重苦しさはない。むしろ、虐殺のシーンも含めてコメディタッチな部分も多い。これは迫真とは異なる見地からホロコーストの異様さを捉えようとした意図にあると思う。
モノクロームの画面もその一環であろう。血の噴き出る勢い等、かなり生々しい描写も多いのだが、モノクロームの画面によりグロテスクな側面は抑えられている。全編を通してほとんどがモノクロームの画面の中、赤い服の少女が登場するショットがある。赤い服の少女の赤が示すのは、噴き出る血であり死だ。モノクロームの画面では届かない暴力が確かにあることをあの赤は忘れさせない。つまりは倒錯の倒錯によってあの赤の意味は強烈に見出されている。

パンの演出にも興味深い点があった。
誤送された従業員をアウシュビッツから労働力として引き抜く場面では助かったユダヤ人とアウシュビッツに送られるユダヤ人の二つの集団がパンで繋がれる。直前の交渉の通り、シンドラーはあくまでリストの中にいるユダヤ人の救出にこだわっており、これは他のユダヤ人を見殺しにしたと言い換えることも出来る。
対して、もう一つ特徴的なパンの動きがある。ラストでは、シンドラーの墓に石を積み上げる実在の生存者たちの列をパンで捉えている。パンという同じ動作でこの両者が類似性を帯びることで浮かび上がることがある。
シンドラーのリストによって救い出された命の価値は評価不可能であり、アウシュビッツで代わりに死んだ命とも比較できない。当然にシンドラーの行いも同等のものであることが示される。
ヒューマニズムは計量可能性から程遠い観念であると、本作は最後に高らかに主張する。
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