元空手部

オッペンハイマーの元空手部のネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

あの有名な1000ヤードの凝視のような表情を時折見せるオッペンハイマーは、数多くのものを見る。というより見通す方が近いのかもしれない。
それはピカソの絵画であり、女の胸の前に突き出されたサンスクリット語の本であり、そして凡人には想像だにできないような量子力学の世界を想像するイメージだ。オッペンハイマーは広島の原爆の被害状況までイメージできる。炭化した人々であり、強烈な眩い光として。
また、核実験のシーンでは、核爆発が誰の視点としても共有されていない。オッペンハイマーの覗き穴としても、グローヴスの視点としてでもなく、三人称カメラとして撮影が行われている。さらに、原爆の爆発は幾度となく繰り返して撮映されている。爆炎の移り変わりから事細かに執拗なほど描写されるそれは、もはや核の炎は誰のものでもないことを示している。人智を超えた対象を人称で捉えることはできない。加えて、観測する側の一方からしか描写されない。カメラに捉えられたそれも存在の仮象に過ぎないのだ。ここまで書いて、ハイデガーの技術論みたいな論調になってしまった。最も、ハイデガー自身原子力に対しては論述を展開していることで有名であるが。駆り立てられたあの莫大なエネルギーは人間の手から逃れてしまっている。
事実、オッペンハイマーは実際の広島の惨状を捉えたフィルムに対しては目を逸らす。オッペンハイマーの想像の範疇を超えた悍ましい光景が映し出されていたことは明らかだ。ラストの核戦争のイメージに対しても目を瞑る。全ての人類が死滅する兵器への責任なぞ取れないからだ。
詩や文学に落とし込めるのもハイデガーぽい、のかもしれない。
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