元空手部

ノスタルジア 4K修復版の元空手部のレビュー・感想・評価

ノスタルジア 4K修復版(1983年製作の映画)
4.2
タルコフスキーの映画を見ると眠くなるとはよく言われることだ。私はそう思わないが、そのように評される一因がなんであるのかはわかる。映画全体に漂うスローな印象だ。このスローのことを技巧的スローモーションと呼びたい。本作では、実際のスローモーションが用いられていない。だが、人物の動きに対するカメラの動きの速度は極めて遅い。あるいは早い。少なからず一般的な劇映画のようなスピードではない。東欧圏特有とも言えるかもしれないがズームやカメラの動きによる技巧的スローモーションは、実存的=人間的な時間とは違う、他の時間がある。
タルコフスキーは敬虔なクリスチャンであることで有名であるが、それに倣いこの技巧的スローモーションを実存に対する本質追求的な時間と定義してみよう。この、二つの時間の交差による一つの視点にこそタルコフスキーが求めたものがあるように見える。
ただ、温泉の対岸へ蝋燭を渡そうとするあのショットだけは役者とカメラのトラッキングが完全に合致している。あの、プランセカンスによる実存的な時間は描かれた描写も相俟ってくだらないものだ。しかし、確かな信仰の礎でもある。
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