GreenT

ピープルvsジョージ・ルーカスのGreenTのレビュー・感想・評価

3.0
この映画は「アートは誰のものなのか?」と問いかけてくる映画だなあと思いました。

ジョージ・ルーカスは、『スター・ウォーズ』の前に撮った『THX1138』と『アメリカン・グラフィティ』という作品が、映画スタジオによって改ざんされた苦い経験があり、『スター・ウォーズ』からは絶対に誰にも手を入れさせない!と決めた、という経歴がまず語られる。

次に、スター・ウォーズのオリジナル・トリロジーのファンの熱狂ぶりが描写される。おもちゃやボックス・セットなどを買い漁るのは当たり前なのだが、なぜかスター・ウォーズのファンたちは、自分たちで「リメイク」を作る人が多いらしい。(スター・ウォーズのファン、というより、ジョージ・ルーカスのファンと言った方がいいかも。『インディアナ・ジョーンズ』をそっくりそのまま、自分主演でリメイクした人もいたから)人間が演じるだけでなく、アニメやストップ・モーション・アニメや、ありとあらゆる表現方法で作っている。

その後、ジョージ・ルーカスがオリジナル・トリロジーのDVDをディレクターズ・カットで発売したのが上記のカルト・ファンたちの非難の的になるエピソードが出てくる。ジョージ・ルーカスとしては、劇場公開版ではできなかったこと、今になってみると「こうしたほうが良かった」と思ったことを反映させた「改善版」だったらしいが、ファンたちは劇場で味わった興奮を味わいたかったのに・・・とガッカリしたらしい。

さらに悪いことに、ジョージ・ルーカスは、劇場公開版をお蔵入りにした。ディレクターズ・カットが正式なスター・ウォーズとして今後何十年も生き残るが、劇場公開版は承認しないことにしたらしい。

そして最後、オリジナル・トリロジーから18年後に公開されたプリクエル、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』に対する公開前の異常なほどの熱狂と、公開後の「こんなにひどいの?!」感の落ち度がすごくて、ここはめちゃ笑った。2分間の予告編を観るためだけに映画館に詰めかけるファンたち、本編では「Star Wars」と画面に出ただけで「うぉ〜!」と盛り上がる会場。しかし物語が進むに連れ、みんな「シーン」となってしまう。

ファンの人達は、『ファントム・メナス』を最低でも2回、多い人は15回近く立て続けに観たらしいのだが、それは「こんなはずじゃない。面白いはずだ、なにか見落としているのか?」という思いだったというその絶望感が、申し訳ないけどとても可笑しくて笑ってしまった。

そしてファンたちは、自分たちバージョンの『ファントム・メナス』をリメイクし始める。ルーカスは、映画スタジオには口出しされなくなったけど、今度はファンたちに自分の作品を改ざんされるハメになった、というオチ。

・・・私は1人のアーティストや1つの作品にこんなに心酔することはないので、カルトファンの気持ちってなんなんだろ?と興味があって観たのですが、やっぱ全くわかりません(笑)

しかし、劇場公開版をお蔵入りにしたというのは、ジョージ・ルーカスのやりすぎだと思いました。私もバージョン違いのDVDを観て「こんな映画だったっけ?」と思うことはしばしばある。映画の中でも言及されていたが、『ブレードランナー』など、別バージョンが何個も販売されている映画もあるのだから、劇場版も出せばいいじゃないかと私も思う。

しかしアーティスト側(ルーカス)は、自分のアートが自分の納得行かない形で世の中に受け入れられているのはイヤだ、という気持ちなんだとしたら、それも理解出来ないことはない。

しかし、『ディレクターズ・カット』というのは、私は「製作者のマスターベーション」だと思う。映画スタジオやプロデューサーからやいのやいの言われないで100%自分の思いのままに作った方が素晴らしいかと言うと、そうでもないときの方が多い。また、映画内でも言われていたけど、劇場公開版ではセットを組んで特撮したところを、ディレクターズカットではルーカスがCGI にしたシーンがあり「オリジナルで特撮をした人に対するレスペクトがない」と言っているファンがいたが、私はレスペクトもそうだけど、やっぱり監督だけでなく、すべての要素がぎゅっと凝縮してその雰囲気、世界観が出来上がるものだから、後からあれこれいじるのはやっぱり・・・。「好きな人がマスターベーションしているのを観てみたい」的な、2次的な作品としてディレクターズ・カットというものがあってもいいけど、それはやはりオリジナルがあるから存在できるものだなあと思う。

それからプリクエルに関しては、私は全く続編というものに興味がないので、「そりゃガッカリして当然でしょ」と思う。『ターミネーター2』のように、期待以上の続編もたまにあるけど、それは本当に稀だと思う。だいたいはオリジナルを超えられない。だって、ガツーン!とものすごい衝撃を与えられた作品なんでしょ?それ以上のものがやすやすと作れるくらいなら苦労しない。

私はアートはアーティスト側のものであると思うし、カルト・ファンたちが「子供の頃の夢を壊された」などと言うのはお門違いだなと思う。しかし同時に、アート作品というのは世に出たらひとり歩きするものでもあると思う。だから本物のアーティストであるならば、過去の栄光にすがって同じマテリアルをいつまでもこねくり回してないで、常に新しいものを生み出す努力をするべきなんじゃないか。『スター・ウォーズ』という名前を使わなかったら誰も見向きもしないかもしれないけど、それが今、自分の作りたいものだったらそれでいいじゃないかと思うのだが。
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