コメディなウディ・アレンは好きだが、シリアスなウディ・アレンはもっと好きだ。今作は後者に類される。
「順調に動いているものは止めぬほうがいい」と思えるほど公私ともに“合格点”の人生を歩み、50歳になった主人公。しかしとあるきっかけから「もうひとりの私」が見えてきて・・。
もうひとりの私というよりは、(自分の中にあったが)見えていなかった私と言うほうがより適切だろうか。他者による主人公評という形でそれがつまびらかになってゆく(「夢」や「演劇」という描写がなされるところがアレン的で、何よりベルイマン的ではないか)。次第に執筆も眠ることもおぼつかなくなってゆく主人公マリオンの様子に、劇中の表現を借りるなら「自己欺瞞」そして「感情に尻込み」という言葉が重なる。
客観的に観てもそうでなくともなかなかに辛い話。後年の傑作『ブルージャスミン』に似た球筋の作品だが、最後に「救い」が配置されるあたりに一抹の優しさが。