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ニンゲン合格の655321のレビュー・感想・評価

ニンゲン合格(1999年製作の映画)
3.8
14歳のときに交通事故に遭った吉井豊が10年間の昏睡状態から目覚めると、家族はバラバラになっていた。

他人は彼に「失った10年はこれから取り返せるさ」と言う。

じゃあこの10年間“吉井豊”は失われていたのか?

黒沢監督の巧みな演出によって“存在”とはこれほどまでに不確かである事を気付かされる。
周囲との関係によって存在は確かになるとするならば彼は一体何なのか?
ぬぼーっと立つ彼の足下を思わず確認してしまう。
あぁちゃんと足はあるな。
彼と幽霊の間にはそれくらいの差しかない。

同時に、そして逆説的に、
“家族”という絶対的で希薄な関係を物語る。
友人や恋人、そうした変わりゆく関係とは違うもの。他に解釈のしようがないもの。
故に、豊は自身の存在の証左を家族以外に問う。


…とか言っちゃう野暮ったい私とは大違いの映画。
淡々と、しかし邦画ホラーの湿り気を感じつつ、それでいて雄弁に映像は語る。
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