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テトロ 過去を殺した男のslowのレビュー・感想・評価

テトロ 過去を殺した男(2009年製作の映画)
4.8
光は時に闇よりも深く、闇は時に光よりも正しい。光源の影へと身を隠し、誰かの舞台を照らす日々。一度はアメリカで葬られ、ブエノスアイレスで息を潜めていた物語は、静かな夜に心する。

夢にまで観る、美しい白と黒の世界。その奥行きと立体感を自分の記憶と錯覚したのか、鑑賞後夢にまで観た。嬉しい。
オールデン・エアエンライクの好演。これは怪演とか、そういう類のものではなくて、役者としての初々しさであったり、その時にしか作れなかったであろう表情などが存分に収められていて、その純度に萌えてしまう。この繊細な若者ぷりは『コントロール』でイアン・カーティスを演じたサム・ライリーに受けた衝撃に近い。ヴィンセント・ギャロも良い。髪ボサボサでも流石の存在感だし、こういう佇まいで語る役には抜群にハマる。そして、マリベル・ベルドゥの喜怒哀楽が残すシーンの余韻。本作を滞りなく回し、緩急を与え続けたのは紛れもなく彼女だと思う。
街並みといい生活感のある部屋の様子といい、モノクロに映えるそれらを見ているだけでもかなり楽しめたし、音楽を始めとしたサウンドワークも刺激的。特に繰り返される扉の音はとても意味深で心に響いた。
これ監督はフィリップ・ガレルかジム・ジャームッシュかマノエル・ド・オリヴェイラか。もちろん、その誰でもなくフランシス・フォード・コッポラなのだけれど、自分の知るコッポラらしくないカメラアングルなんかもあり、とても新鮮。ここまで充実した映画は久しぶりに観た。これは大事な大事な映画となりそう。
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