GreenT

追憶のGreenTのレビュー・感想・評価

追憶(1973年製作の映画)
3.0
ガリ勉で冴えない女の子が、学校一のハンサムを射止めてしまう話かと思っていたら、時代背景が興味深い映画でした。

主人公のケイティはあまり美人でなく、勉強とバイトばっかりしていて男の子にも興味がない。彼女のパッションは政治で、戦争反対のプロテスト活動をしているんだけど、共産主義を応援していることと、やっぱ美人じゃないからかなあ、みんなにおちょくられている。でもそんな同級生たちを、彼女は「バカ」だと思っている。

ハベルは人生楽しくなきゃ損!みたいな典型的な大学生で、運動もできるから女の子にキャーキャー言われるし、酒飲んでパーティして可愛い女の子と付き合ってって遊んでばっかいるんだけど、なぜか成績も悪くない。

ハベルを演じるのがロバート・レッドフォードなのですが、金髪のイケメンで、レガッタ競技しているところとか、『ソーシャル・ネットワーク』のアーミー・ハマーを思わせる。つまり白人特権階級臭プンプンな感じで、ロバート・レッドフォードなのになぜか好感度低い。

ケイティはライティングも好きで、自分が書いた短編を教授に認めて欲しかったんだけど、教授が選んだのはハベルの作品だった。ハベルは短編の中で「自分は努力しなくてもなんでもできちゃう。なにもかもイージーだ」と言う。

ケイティ役を演じるのはバーブラ・ストライザンドなんですけど、クリクリのカーリー頭で、顔も独特だから「美人じゃない女の子」って設定なんだろうなって思ってたんだけど、これってユダヤ人と白人の恋ってことなんだなあと思いました。あとでウィキを読んだら、原作を書いたアーサー・ローレンツは、「そろそろハリウッドのメインストリームにユダヤ人のヒロインが登場しても良い頃だ」と思って、この役柄をバーブラ・ストライザンドのために書いたんだそうです。

ロバート・レッドフォード監督の『クイズ・ショウ』でも、ジョン・タトゥーロ演じる主人公のユダヤ人の男性は、容姿端麗ではないため、レイフ・ファインズ演じる「いかにもな白人」が取って代わるとTVの視聴率が急上昇するという下りがありましたが、昔は黒人やアジア人に対する差別の前に、まずユダヤ人を見下す風潮があったんだなあと思わされる。

だからなのか、ケイティは色恋ごとに興味がないのに、やっぱりハベルには惹かれてしまう。そしてハベルは、地味だけど一本筋が通ったケイティを愛するようになる。

どうも観ていると、2人はお互い自分にないところを持つ相手を尊敬しているし愛しているんだろうけど、一緒にいるのは難しい。ケイティはハベルのチャラチャラした金持ち友達が大嫌い。政治家をおちょくるばっかりで、国のことを真剣に考えたりしない。

私は政治にはあまり強くないんですけど、彼氏の友達とグループ付き合いをするのすっごい苦手なので、この気持分かる。大人数で集まって、ダラダラと下らない長話しているの疲れる。

だけどケイティは華やかなWASPの白人に比べてユダヤ人の自分が地味で美しくない、みたいなコンプレックスもあるんだろうなあと思わされる、強い女性でありながらそういうはかないところもある。

ハベルはケイティのしっかりしたところが好きなんだけど、遊びがなくて疲れる。

まあそれで別れるの別れないの、危機に直面したりするのですが、ケイティの方が多少折れるのか、ハベルの小説がハリウッドで映画化されることを受け入れて、2人はニューヨークからLAに引っ越す。

これも時代背景的に面白くて、ケイティは「ハリウッドで映画化されるなんて!」って、ハベルに「あなたは才能があるんだから、もっと高尚な小説を書け」と言わんばかり。だけど、少し折れて、ハベル好みのファッションをしたりとか、ちょっとセレブっぽく変わってハリウッドでの生活に馴染もうと奮闘しているところが可愛い。

しかし時はハリウッドの「赤狩り」の時代。みなさん、知ってますか、赤狩り?!私も噂に聞いた程度の知識しかないので、この映画で観てもなんかモヤっとしている。

いずれにしろ、理想主義で政治にパッションがあったケイティは、共産主義者だからと政府がハリウッドの芸能人を糾弾したことに抗議するためにワシントンDCに行く。それでまたハベルは彼女にうんざりする。

ロバート・レッドフォードって結構こういう政治がらみの映画多くて、というかこの人明らかにハリウッドのリベラルなので、この役を演じているのが意外でした。なんか本人もあんまりやりたくなかったらしいです。

ハベルは、ケイティに惹かれてはいるんだけど、ケイティの情熱に付き合って苦労する気はない。ハンサムで頭も悪くなくて運動もできて白人特権階級で、なんの苦もなく生きてきたから、ケイティのような「人生は戦い」みたいな人と一緒にはいられない。

ケイティは、すっごくハベルに惹かれているし、彼の好みの女になりたいんだけど、それは自分のなりたい人間とは違う。

惹かれ合っているのに一緒にいられない2人ってのが切ないなあ〜って、ジンとくるモーメントもありながら、全体的に「?」な感じなんですけど、どーやら原作・脚本のアーサー・ローレンツと監督のシドニー・ポラックの思惑が違ってアーサー・ローレンツが降板、複数の脚本家を雇っての書き直しが入って、主演のバーブラ・ストライザンドとロバート・レッドフォードも「なんだこりゃ」な話になった後、すでに自分の原作からは遠くかけ離れてしまったプロジェクトに興味が失せたアーサー・ローレンツを金で説得して書き直しさせ、みたいな流れで出来た映画らしくて、ウィキによると評論家たちの評判はあまり良くないんですよね。なんか日本ではすごい名作みたいに言われていた憶えがあるのですが。
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