【ひと言説明】
黒澤明とタッグを組んだり、歴史的傑作の脚本を数々手掛けてきた橋本忍によるサスペンス会話劇。
浪人(ニート)が大名(金持ち)の家に行って「玄関先で切腹させてください!」とお願いして、「いやいや、さすがに困る!食えないなら金だけでも持って帰れ!」と言わせて実質的に金をせびる行為が蔓延っていた時代。
ある浪人が井伊家のもとで切腹のお願いをすると、「つい先日も同じ様なことを行ってきた浪人がいてな…」と話し始める家老。
そこから淡々と予想外の展開を始める会話劇。
【感想】
羅生門の橋本忍が、武士社会の虚飾("侍の美学")を批判的に描いた会話劇。
時系列を自在に操る羅生門的な入れ子構造となっている。
一見、自明なパワーバランスが浪人の会話が進む中でじわじわと崩れていって、大名家側が動揺していく姿が凄い。ダークナイトで一見不利な立場で拘束されてるジョーカーが、何故か余裕綽々なそぶりで警察達を焦らせる感じ。底知れぬ怖さ。
日本的形式美を皮肉的に利用してる。虚飾に塗れた慣例(武士の気高さや切腹の形式など)で残酷性をマスク感じとかは、現代にも通ずる日本人"らしい"陰湿極まりない残酷性が現れていて怖い。竹光(=安物の刀、全然切れない)で無理矢理切腹させるとか、本当に鬼畜。
「貴殿はその様な奴とは、到底思わん」が、この映画で一番怖い台詞だったかもしれない。
求女の亡骸が運ばれてくるところ、白い布で全身覆われているのにとてもグロテスク。
実力のある叩き上げの浪人と、温室育ちで実力のない"武士"との対比。死傷者を全て"病死"と報告させるという自明な嘘は、事実よりも建前を重んじる侍精神の暗部でもあるよね…。