むさじー

水の中のナイフのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

水の中のナイフ(1962年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

<欲望、嫉妬、嘘が渦巻く船上の心理劇>

自尊心の強い金持ち中年男、結婚生活に倦怠を感じている妻、貧しく反抗的な若者、三者の対立・葛藤を描いたサスペンスタッチの心理ドラマ。
三人で湖上にヨットを出し、金持ち男の横暴さと若者の反抗心が火花を散らすが、若者が持っていた一本のナイフを見せることで、三人に微妙な波紋を広げていく。
その若者が湖に消え、それを妻になじられて、夫はいつしか得も言われぬ罪の意識を抱き、小心ぶりを露呈していく。
やがて妻の真相告白を聞いても夫は、自分を庇おうとしているだけだと信用せずに、妻の不貞と自分の罪の狭間で揺れる。
一方妻は、今まで傲慢だった夫が自らの過ちを深く悔いている姿にどこか安心感を覚えて、夫との力関係が逆転しつつあることを感じている。
御身大切で、嘘と曖昧さで成り立っている大人の関係に落ち着いて、夫婦はこれからも円満にやっていけると予感させて終わる。
一般に、夫アンジェイが権力の象徴、ナイフと若者が反体制の象徴と解されているが、それと共に、溺れる振りをする若者、湖に飛び込み誠実さを示す夫、秘め事で操るずる賢い妻、三人の保身のための嘘にはシニカルな視線を感じる。
当時29歳だった監督の長編デビュー作で、ナイフに秘めた鋭い輝きに若さを感じるが、何事か起きそうで起きないスリリングな展開には早くも演出の冴えが見える。
むさじー

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