だいすけ

アラバマ物語のだいすけのレビュー・感想・評価

アラバマ物語(1962年製作の映画)
4.5
子供の視点で善悪と法について考えさせる非常に優れた法廷ドラマ。誠実な人格者アティカスを演じるグレゴリー・ペックの演技が素晴らしい。彼が作る間合いや声の抑揚は完璧。

ストーリーは総じて子供の視点を経て進行する。子供の純粋な視点を借りることで、人種差別が横行する現実は、より理不尽に映る。

しかし、子供たちにも差別の芽が備わっている。それは、よく知りもしないブーのことを怪物扱いしていることからわかる。悪意があるわけではなく、純粋であるがゆえのステレオタイプだ。当初こそブーのことを恐れていた子供たちだが、ブーからの贈り物、そして身を張る行為を受けて、考えを改める。相手を思いやり、歩み寄ることによって、相手の本当の姿が見えるということを学んだ。

こうした子供の柔軟な姿勢と、人種差別主義の大人の凝り固まった思考が対比されている。スカウトたちは、幼少時代に、アティカスという心強いメンターに恵まれ、思いやりの心を身に付けることができた。しかし、長年をかけて形成された大人のこじれた思考は、容易には変革できないらしい。

法廷ドラマとして、こうした形で決着がつけられるのは珍しい。大体は、裁判に勝ってハッピーエンドか、さもなければ理不尽なバッドエンドに終わる。この結末から言えることは、第一に、法は必ずしも善悪の基準にはなりえないということだ。当時の白人優位社会は、まさにそうした状況だったはずで、批判の意図が感じられる。公正な裁きが保障されない法には価値がない。こうした主張が、アティカスの切実な思いと怒りが混じった口調に表れている。そして第二に、ツグミが殺される理不尽な結末は、絶対にあってはならないということだ。そのためには、危険因子は排除されなければならない。狂犬は殺さなければならないのだ。

とはいえ、人種差別主義者を殺してでも黒人の権利を守る、という単純な話ではない、と信じたい。スカウトたちが思いやりの大切さを学んだように、子供の中に芽生える差別の芽を摘み取ることが、危険因子の排除につながる。思いやりを持った人間が大多数になれば、人種差別もなくなる。人種差別の問題は、何世代にも渡って取り組まなければ解決しない、そういった覚悟がこの作品には見受けられる。

差別をテーマにした映画ではあるが、シリアスになりすぎず、ノスタルジックな魅力もある。エルマー・バーンスタインの音楽の調べが素晴らしい。
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