こたつむり

ダウト 〜あるカトリック学校で〜のこたつむりのレビュー・感想・評価

3.7
★ 疑っているうちはまだしも
  それを口にしたら…戦争だろうがっ!

表面上は穏やかで厳か。
しかし、水面下で激しく争う作品でした。

物語としては、カトリック学校の《校長》が“神父による未成年への性的関与”を疑っていく展開…なのですが、この《校長》を演じたメリル・ストリープが見事なまでに適役。『プラダを着た悪魔』で演じた《鬼編集長》を彷彿とさせる厳しさを見せるのです。

また、相対する《神父》はフィリップ・シーモア・ホフマン。真意が読めない目元と薄い唇が、どこに“真実”があるのか迷わせてくる存在感。こちらも見事に適役でした。

そして、その二人に挟まれる《シスター》を演じたのがエイミー・アダムス。清純なキャラクタを好演し、激しくイライラさせてくれます。「正論は空論になりかねない」という現実を見事に切り取っていました。

だから、この三人がグネグネと絡む様は圧巻。
三人ともクセが強い個性なので感情移入することが難しいのに、グイグイと惹きつけられていくのです。やはり、配役と脚本が上手く噛み合うと見応えがありますね。

ちなみに本作を仕上げたのはジョン・パトリック・シャンリィ。…ってスミマセン。寡聞ながらに知りませんでしたが、映画監督よりも劇作家が本業の御方。なるほど。役者さんの持ち味を引き出すのはお手の物なのですね。

だから、全てを語らない脚本も演出同様に秀逸。劇作家らしく“言葉を大切にした脚本”は、台詞と台詞が有機的に反応し、無駄な場面がありません。宗教、人種、思想…複雑に絡み合いながらも、ぐわんぐわんと価値観を揺さぶってきます。

しかも、他の作品『スポットライト』でも描かれているように“聖職者の性的虐待”はあり得ますからね。そんな事実も観る側を試してくる要因になるのです。

まあ、そんなわけで。
ビデオ店の分類では「ドラマ」に入るかもしれませんが、水面下で繰り広げられるヒリヒリとした雰囲気は「サスペンス」。上質な装丁の本を読んだような充実感を味わえる良作でした。ただ、観客が一歩踏み込む必要があるので、対象年齢は高めだと思います。
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