こたつむり

怪物のこたつむりのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.4
♪ 忘れない いつまでも 二人でいたくて
  おもいきり ゆっくりと歩いたよ

本当に面白い映画は多角的だと思うんですよ。
つまり、どの断面を切り取っても、どの方向から眺めても、味わい深く、そして染み入るものがあるのです。

だから、本作は「面白い」と断言できます。
一流のサスペンスであり、社会派であり、ラブストーリーであり、喜劇であり、悲劇であり、煌めきと闇をまとった青春の一頁なのですから。

これは、まず脚本を褒め称えるべきでしょう。
仕上げたのは坂元裕二さん。トレンディドラマの印象が先立つんですが、深海にズブズブと沈んでいくような物語も書くことがあるんですね。脱帽です。

また、それを見事にまとめたのが是枝監督。
細かいところまで手を抜かず、それでいてテンポは良く。ノスタルジーを擽るような部分もあり、それでいて絵画的な美もある、更には役者さんの良いところも十二分に引き出す…。

それじゃあ、満点の映画じゃあないか。
と思わず唸ってしまうのですが、いやいや、是枝監督の高みは本作に在らず。更に先の先の先に在ると思いますので、ここで満点を付けてしまうのはモッタイナイ話なのです。

とは言え、伏線の張り方は超一流。
ノイズのような管楽器とか、肌が見えたときの傷とか、サイズが合わない靴とか、投げられた雑巾とか。全てが収束していく様は満点の仕上がり。円楽さんなら「座布団10枚」と言っても不思議ではありません。

まあ、そんなわけで。
先入観も予断も事前情報も捨てて、真っ新な気持ちで臨んでいただきたい逸品。思うに、本作の最大の功労者は“タイトル”でしょうね。不穏なのに“何か”を期待させる、この二文字が…たぶん想像力を最大限に刺激してくれるのでしょう。

やっぱり、映画の最大の調味料は想像力。
それを再認識した次第です。
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