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デッドマンのblacknessfallのレビュー・感想・評価

デッドマン(1995年製作の映画)
3.4
ジム・ジャームッシュの西部劇

気弱な会計士トム・ブレイクは就職のためクリーブランドからマシーンという街を訪れる。
決まっていたはずの会計士の職は理不尽な理由で得ることができなかった。
途方にくれるトムはセルという美女と一夜を共にする。そこにセルに好意持つ男が現れ諍いなる。男がトムに発砲。その時セルがトムを守ろうと身を投げだしセルが死亡する。トムは弾丸が心臓の横に着弾する重症を負うが自分の銃で男を射殺する。

正当防衛たが冤罪をかけられ"白人殺し"として首に賞金をかけられお尋ね者になる。

行き倒れていたところノーバディという名のネイティブ・アメリカンに助けられる。
ノーバディはトムを自分が崇拝する詩人ウィリアム・ブレイクと思い込み、トムの逃避行に同行することになる。

ネイティブ・アメリカンがウィリアム・ブレイク好きってこと以外、割りとオーソドックスな西部劇なんだけど、監督がジャームッシュなんでオフ・ビートで乾いたユーモアがあるスタイリッシュなアート映画に仕上がってる。
セリフとかにウィリアム・ブレイクの詩が引用されて衒学的な雰囲気が漂う。よく分からないけど観念的に深いことを示唆してるような笑 ネイティブ・アメリカン自体にそういうスピリチュアルなとこあるし、それがジャームッシュの映像センス相まって独特の世界を構築してる。

賞金をかけられてるから追っ手との撃ち合いもあるけど、これも本当にスタイリッシュで淡いトーンでマカロニ・ウエスタンのような破壊性や外連味を期待すると肩透かし喰う笑
ジャームッシュだしないって分かってたけど笑

最初ヘタレな会計士のトムが追われるうちに撃ち合いで人を殺る度に腹の据わったガンマンになっていき、最終的に濡れ衣だった"白人殺し"に相応しい風格とオーラを獲得していくのはおもしろかった。
そして、最後までトムを詩人のウィリアム・ブレイクだと信じるネイティブ・アメリカンとの独特の距離感も異形のバディものとして味わい深かった。

スタイリッシュで美しい自然の映像、神秘的なネイティブ・アメリカンの集落とビジュアル的に見所が多いし、ニール・ヤングのスコアも何にも似ていない西部劇の異形性にマッチして心地好かった。
『パターソン』でも思ったけどジャームッシュは土地の風味や空気間を魅力的に撮るのがうまいと思った。リアルだけど幻想的な土地を表出させる。あと、絵画的というか、これはモノクロなんで水墨画の風景画を思わせるショットがいくつもあった。

心を洗われるような清涼感のある映画だな。
疫病が蔓延し明日の命がどうなるかわからない人々を放置して金や利権のために強行した運動会(東京オリンピック2020)のせいで溜まった心の澱が少し浄化されたね。
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