サマセット7

パニック・ルームのサマセット7のレビュー・感想・評価

パニック・ルーム(2002年製作の映画)
3.2
監督は「セブン」「ファイト・クラブ」のデヴィッド・フィンチャー、主演は「告発の行方」「羊たちの沈黙」のジョディ・フォスター。
離婚の腹いせに亡くなった富豪の持ち家だったという4階建ての豪邸を購入したメグ(ジョディ)は娘サラと入居する。
しかし、引越し当日の晩、3人組の男が屋敷に押し入ってくる。
母子は屋敷の寝室に据え付けられていた避難部屋「パニックルーム」に逃げ込むが、なぜか男たちは屋敷を離れようとせず…。

ジャンルとしては、いわゆるシチュエーションスリラー。
一晩、屋敷内、という限定された時空間で、母子と押し入ってきた3人の男たちの攻防を描く。

オープニングから入居までは静かに伏線を巻きに来ている風情。
深夜、母子しかいない邸宅に、男が侵入してくる描写は、デヴィッド・フィンチャー監督お得意の暗がりの演出も相まって、極めて不気味であり、ゾッとさせられる。

前半、パニックルームに立て篭もった母子側は、外部との連絡不可能な状況から、安全に解放されることを目指す。
一方、侵入者側は、ある目的から、母子にパニックルームを開放させることを目指す。
一見双方の要望は噛み合っているようだが、うまくいかないのが面白いところ。
事態は籠城戦に発展する。
部屋の内外分かれての知略を尽くした攻防が今作の見所。
互いに次から次と手を繰り出し、それに対応していく様をテンポよく描いて、面白い。
後半、ある出来事から話が一気に転がり、飽きさせない。

カメラが小さな隙間に入り込んで移動し位置関係を明らかにするカメラワークなど、いくつか変わった映像表現が見られる。

母子と3人の男たちのキャストはいずれも熱演といってもいいだろう。
特にジョディ・フォスターの緊迫感あふれる演技は流石。
フォレスト・ウィテカーも迫力と人間味が出ていて良い。

今作では良くも悪くも、母子側と押し入った男たち側との力関係のバランスが絶妙に保たれている。
母子には閉所恐怖症など健康に不安がある一方、男たちは一枚岩ではない。
また、男たちの狙いと母子の守りたいものの間にはズレがある。
このバランスは、双方に希望を与え、物語の推進力となっている一方、スリルという点で特に侵入者側に若干物足りなさを覚える要因となっている。

今作のテーマは、「セーフルームって、いざと言うとき役に立つの?」。
脚本家のこのテーマによるワンアイデアで作られただけあり、「パニックルーム」の性質や機能がこれでもかとシナリオに詰め込まれている。
今作の実質的主役は、「パニックルーム」そのものと言えようか。
日本では費用対効果が確実に見合わないためか耳慣れないセーフルームは、アメリカの格差社会と銃社会を、ある意味で象徴するような存在。
今作は0年代の問題意識を、セーフルームという時事ネタに詰め込んだ映画という見方も可能かも知れない。
思えば侵入者のうち、バーナムとジュニアは格差社会を、ラウールは銃社会をそれぞれ象徴するようなキャラクターである。
さらにメグとサラが社会の歪みに最前線で曝されている母子家庭と、キャラクターの配置にもホットな問題意識が見られる。

総じて、シチュエーションスリラーの小品という印象の作品。
さらっと観れて、適度にハラハラさせられる。
なお、1番の感想は、不動産屋、仕事しろ、であった。