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女が階段を上る時のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

女が階段を上る時(1960年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

本作は私のような成瀬ファンをまた一段と成瀬好きにさせる映画である。高峰秀子とのタッグはとにかく間違いがない。台詞がなくとも目線だけで語るべきを語ってしまう演技力、本作で衣装を担当してしまうような多才さには尊敬以外の言葉が見当たらない。この世で一番好きな役者と言われれば、真っ先に彼女の名前を挙げるだろう。

本作の役柄がまた高峰秀子にぴったり。『放浪記』でも見せたような不器用ながらもひとり強く生きていく女性を演じさせたら天下一品である。特に他の「プロ」と銀座で偶然出会うシーン。お互いを牽制するような会話をしながらも、高峰秀子演じる圭子は自分がそういう商売に向いていないということを頭ではわかっているゆえに、何とも言えない表情を残して別れる。こういうさりげない演技で多くを語ってしまうところが彼女の役者としての真骨頂だろう。

それを切り取る成瀬の演出も良い。相変わらずテンポが良く、話の成り行きから湿っぽくなりそうなところをサラッと描いてしまう。女性を悲劇の主人公とした作品が多く作られたこの時代において、女性を憐みの対象としてのみ扱うことに疑問を抱いていた成瀬なりの優しさだろう。男性だろうが女性だろうが、それぞれに葛藤があり、それを乗り越えようと皆必死に生きている。女性の社会的地位がまだ低かった時代だからこそ(今も決して高いとは言えないが)、女性が力強く生きる姿を映し出し、未来に対する希望を予感させるような作品を作り続けたのではないだろうか。

成瀬作品を観れば観るほど、高峰秀子を観れば観るほど、彼らのファンになっていく。こんな人たちが日本の映画界に実在したのだということが誇らしい。あの黒澤明も成瀬のことを尊敬していたようだし、作品だけでなくその仕事っぷり、制作の様子も気になるところだ。これからもっと映画を勉強して、成瀬のような映画を作れる存在になりたい。
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