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父親たちの星条旗のarchのレビュー・感想・評価

父親たちの星条旗(2006年製作の映画)
3.4
硫黄島プロジェクト第1弾、アメリカからの視点で語られる太平洋戦争最大の闘い「硫黄島の戦い」を描いた作品。

「英雄とは人間たちが必要に駆られて作るものだ そうでもしないと命を犠牲にする行為は理解し難いからだ」
この言葉に全ては集約される。英雄という概念が元はと言えば神話や伝承に存在する創作であることを思い出せば、そもそもとして英雄という存在は物語としてしか生まれない。



戦場を経験し、英雄は存在せず、戦場ではただの数字でしかないと思い知らされた彼らが、母国に帰ると英雄として扱われ、広告として名前を売られることに苦悩していく作品で、戦場と本国とのギャップを痛感し、彼らがなんのために闘ったのかを描いた作品になっている。インタビューによる回想とフラッシュバック、そして複数の視点が絡まりながらも整理されていて分かりづらくはない。ただ物語の進行は鈍重ではあった。

一枚の写真が象徴し、巻き起こした事件は表象の持つ扇動力のようなものを感じざるを得ないが、これは映画とも置き換えることが出来る。映画のプロパガンダとしての機能、メッセージを伝える力というものも侮ってはいけず、クリント・イーストウッドはそこに自覚的だからこそ、このテーマを扱う意義があると感じたのではないだろうか。

イーストウッドは1930年生まれである。だからこの作品の兵士達よりちょうど5年ぐらい若い年代だ。つまりこの映画は珍しくもクリント・イーストウッドの上の世代を描いた作品であるのだ。世代交代は1つのテーマだったが、それが交代される側として立つのは初めての事だ。
過去の戦争娯楽映画を踏まえても、年齢を重ねて考えの変化のようなものを感じさせる映画でした。
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