しゃにむ

コズモポリスのしゃにむのレビュー・感想・評価

コズモポリス(2012年製作の映画)
4.2
「破壊衝動は創造衝動なんだ」

↓あらすじ
銃弾もはねのける厳重なハイテクリムジンに乗り警護班に守られる大富豪。床屋に行きたいがために大統領のパレードで交通規制も横切ろうとする。しかし彼の超リッチな生活は中国の元の暴落と共に崩れ去る。元の暴落で数百億ドルが溶ける。彼の損失は無数の人々に影響し殺害脅迫が鳴り止まない。動揺も見せずに愛人の元へ行く。群衆はねずみに浮かれ始める。渋滞の中ゆっくり動くリムジンの外では地獄のような暴動が起きる。だが彼は平然としている。世界は幽霊。サイバー資本主義はまやかしである。情報に呑まれる人々の復讐。彼は快楽に溺れ破滅を望む…

・感想
普段何気なく過ごしている日々は、鯨くらいの大きさの眠る猫のお腹の上に立てたトランプの城のように不安定なものだ、と我々は気づかない。流動的な社会の中で立ったままでいる気分は時代に感覚が麻痺している。変わらないものは無い。細胞分裂を繰り返すと昨日の自分と今の自分は微妙に違う。留まりたい安心したい。それは本能的な願望だ。よくよく考えると安定願望のある人間存在が社会という得体の知れない可変的有機体に呑み込まれること自体矛盾している。矛盾に気づくのは自然災害や経済危機で安定のペンキが剥がれて混沌がにじみ出る瞬間に直面してからだろう。平和ボケして鈍感なのだ。今作は内容がよく分からない。まとめにくい。要するにリッチな男の破滅譚なのだけどそれだけに要約するには含みが多すぎる。きっと深いメッセージが秘められているのだと思う。読解力に乏しく理解に苦しんだ。最近話題の仮想通貨も今作に関連しているかも知れない。高度情報化は、情報という実態があるのか無いのか分からない貪欲な怪物に人間が食われる現象かもしれない。古くから時は金なりと言われている。時給なんて分かりやすい。有限であり貴重な時間と金を交換する生きるための契約だ。時間は金になる。昔からそうだった。しかし逆転現象が起きつつある。金が時間になるのだ。富めれば富めるだけ富と交換してきた時間を使わなくて済む。普通の人に比べたら時間が豊かだ。そうかは分からないけれど時間がお金で買えるようになる。行き過ぎた合理化の最果ての風景。貧富の差は時間の貧富の差を生む。本来時間は平等に分け与えられているのに不平等が生じる。自然の摂理が書き換えられる。人間は不自然を自然にしてしまう。道理ではないから不安。ますます不安が深刻になる。時間もないし金もないのだ。全部情報が食いやがった。貨幣が暴落し経済危機が起きるとパニックは必至である。ねずみ教団なるカルト集団が抗議デモを起こす終末絵図が街に広がる。時間も買える金が無くなる。すると人間から時間が無くなる。存在が根本から揺らぐ。忘れたい不安の発作が集団ヒステリーを起こす。渋滞の中の群衆のパニックは現代人と情報化社会の本質をえぐり出したようで不安になった。情報社会で勝ち馬に乗った大富豪の都落ちも不安をほのめかしている気がする。勝ちに奢り読み間違えた。些細なミスでピラミッドの頂点から底辺へと転げ落ちる。勝負は五分五分。卓球のネットに乗ったピン球がどちらに落ちるかと言う壮絶な運否天賦が読みの勝負。読み当て続けてもいずれ間違える。不安定な波に安定的に乗り続けるのは無理がある。彼から人間は所詮不安存在であることを感じる。富を独占する。誰かの時間を金を奪う。幸せになる代わりに不幸を振りまく。バチをもらうことなく天国に近い摩天楼に暮らす。ある意味バチかもしれない。彼も情報社会の犠牲者でもある。彼の命を狙う男はますます本質を見せつけてくる。彼は主人公に雇われた元会社員。情報化に対応して業務が複雑化。何とか噛り付いていたけれど、とうとう耐え切れなくなる。生きている意味を見失う。自分を不安の病にした張本人を抹殺することを代わりに生き甲斐にする。何とも悲惨。確かに現代社会では生きる意味は見つけにくい。疎外感や孤独感に蝕まれる。複雑化した社会の犠牲者だ。これが普通になる時代が来るのだろうか。不安を克服することは出来るか。猫の寝返りに怯えるばかりだ。自分が生きる社会の化けの皮を剥いだらこうなるのかも。
しゃにむ

しゃにむ