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獣は月夜に夢を見るのしゃにむのレビュー・感想・評価

獣は月夜に夢を見る(2014年製作の映画)
4.4
「人間は獣を柵で囲う。しかし柵で囲われているのはどちらか考えたことはあるか」

↓あらすじ
海辺の町に住む夫婦と娘。母親は謎の病気のために体を動かせず車椅子生活。独りで生活が送れない。娘のマリーは近所の魚の加工工場で男たちと共に働く。マリーに遠巻きに悪意の視線を送り陰湿ないじめをする男たち。一家はある理由から忌み嫌われる。マリーは事情を知らない。もの言えぬ美しい母に何かしら秘密が隠されていることを知る。かかりつけの医者の意味深な忠告。マリーは近いうちに毛深くなり感情的になるという。日増しにエスカレートする男たちの暴力にマリーは精神的に滅入る。親切にしてくれた男と親密になる。浜辺で夜を共にする。男に抱かれた時にマリーの体に異変が起きる。記憶を無くした翌朝。その男が失踪したという。時同じく母にも異変が起き…医者を噛み殺す。疑いの目が一家に向く。そして母は死を選ぶ。追い詰められるマリー。獣はどちらか…

・感想
人は凶暴な獣を見つけると檻で囲う。化け物とか怪物とかいう呼称は自分たちが正常であることを保証する言葉でもある。野蛮性を蔑み理性を賞賛する。まぁしかし視点を相手に置き換えると人間の一方的な囲い込みこそ野蛮で凶暴な行為に思えなくも無い。柵で一方的に囲う。はてさて柵の中から見れば人間たちも囲われているようにも見える。そういうことがしばしばある。普段は恐怖の対象でしかない怪物に心底同情して逆に人間たちに怪物性を見出す嫌な感じの作品である。個人的に鑑賞した感じは『モールス』に似ていた(分かれば一瞬で分かるかも)。娘と母の血に流れている異形の血。美しくおぞましい。見惚れるくらいの美貌に似合わない残忍な中身という本来なら交わり得ない組み合わせに心えぐられる。ただでさえ心が痛む。傷口をえぐるように理不尽な仕打ちが続々と起きる。もの言わぬ敵意。野蛮な男だらけの空間に独り存在する華奢で繊細な体つきのマリー。少女に行使してはならない悪意と暴力が平気で彼女に向けられる。魚の残骸のプールに突き落とされて集団で嘲笑われる。ロッカーに腐った魚を詰められる。助けの呼べない場所で辱められる。穢らわしい男たちに吐き気すら。理由が分からないから余計に不快。男たちは事情を知っているが一番知りたいマリーには教えない。疎外感。孤独感。絶望感。ひりひりと心がきしんでわけもないのに震える。言葉が通じ得ない動物たちの檻に放り込まれたような不安と絶望に取り込まれる。そこで少女の化けの皮が剥がれる。せいせいするかと思ったら逆。ますます心が痛む。あまりに脆い少女の体に宿るにはあまりに血生臭く残酷なけだもの。何と世界は非情なのだろう。ここら辺で分からなくなる。柵の中にいるのは怪物なのだろうか。柵の外にいる人々は怪物ではないと言い切れるのだろうか。怪物を閉じ込めた船が行く。怪物に命をむしり取られる人々。血と肉の散乱。この世の地獄。さてどちらかと言われたら困る。柵があるということは自分たちも柵に囲われるということもあるのだ。怪物はどちらか。絶望に墜落する静寂の中でその問いに詰まってしまう。
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